女性活用、鍵は男性の「頭の切り替え」と「腹落ち」
ここが違った!女性が活躍する企業、ダメな企業(2)
「全上場企業で役員に1人は女性の登用を」
2013年4月に安倍首相が経済3団体に要請したことから、注目の集まる「女性役員」という存在。それに呼応するように、女性役員を何年後までに登用すると発表する企業が相次いでいる。女性を役員に登用するにはどうしたらいいのだろうか。前回登場した大和証券グループ本社・鈴木茂晴会長は、2009年4月に生え抜きの40代の女性役員を4人誕生させて話題を呼んだが、それは、一気になしえたわけではない。2005年、社内に「女性活躍推進チーム」を発足させ、女性の活躍支援とワークライフバランスの両面で、きめ細かに施策を打ち、女性を活躍する土台をつくり、地道に女性たちのキャリア開発をしてきた結果である。女性役員の前に、当然であるが、役員候補たる女性管理職の育成を、さらには女性管理職候補の母集団を形成することが重要なのである。
日経ウーマンは2013年春、創刊25周年を迎えた。四半世紀にわたり、働く女性と企業を追ってきたが、女性役員誕生の記事を書いたのに、数年もたたずに転職してしまった、華々しい女性登用策を打ちながら、その後尻すぼみになってしまった…など、いろいろなケースを見てきた。打ち上げ花火ではなく、持続的にかつ効果的に「女性が活躍する組織」にするには何が大切なのか? 『日経ウーマン 企業の女性活用度調査2013報告書』[注1]から、その結果と分析を踏まえてまとめてみたい。
女性が活躍する企業は長期的に成長する可能性がある
同調査によると、2013年の女性役員比率は3.6%である。2012年が2.8%だったので、0.8pt(ポイント)増となっている。女性課長職比率10.1%(前年1.7pt増)、女性部長職比率5.2%(同0.5pt増)で、女性管理職比率は8.4%(同1.5pt増)である。女性管理職数は「5年前に比べると増えている」が74%と7割を超える結果となり、従業員規模別を見ると、規模が大きい企業ほど女性管理職の人数が増加する傾向がある。業種別には、どの業種でも増加傾向が見られたが、業種によってばらつきもあり、食品、化学・医薬品、金融・証券、保険業、公共的サービス業では8割以上の企業が「女性管理職者数が5年前と比べて増えている」と回答している一方で、電機・精密、総合商社・卸売業・小売業では6割程度に留まるなど、業種による差も見られた。
大和証券チーフクオンツアナリストの吉野貴晶氏は、同調査100位までのランキング企業の株式パフォーマンスを分析したが、「TOPIX500指数と比べると過去3年間の超過リターンは2.32%と良好」と結論。吉野氏は、2008年発表された同調査の上位100社の5年間の株式パフォーマンスも分析したが、そこでも対TOPIX500は5年間で1.5%上回っており、中でも女性管理職比率などをみる「管理職登用度」上位10社のパフォーマンスが7.88%と突出していたことを明らかにした(図1)。
「女性が活躍してそれを企業側が評価して、応じたポストに就くことができる企業が成長しており、株式市場からも評価されています」と吉野氏。
「その理由は2つあります。1つは企業側から女性が活躍できるフィールドが用意されていること、2つめは仕事の成果に応じた処遇をおこなっていること。この2つの理由をさらに考えると、経営資源の効率的な配分ができていることや、能力主義の評価が実現できていることにつながり、優れた企業風土を表しています。人材を有効に活用できる企業が長期的に成長する可能性が高まり、株式市場でも期待されることを示しているでしょう」(吉野氏)
女性活躍を「自分ごと」とする仕組みを構築する
同報告書には、上位100社のうち20社の詳細な人事施策を記載しているが、多くの企業が女性活躍のために重要なこととして、「トップのコミットメント」をあげている。経営トップが、女性活躍が福利厚生や理念ではなく、企業PRのためでもなく、自社、自組織の成長にとって必要であることを社内外に広くメッセージとしておくる。この重要性は議論を待たないだろう。しかし、さらに、推進のためには、経営層・管理職層という男性側の、「頭の切り替え」と「腹落ち」が必要であろう。重要性を頭で理解し、なおかつ納得して自ら進んでやるような仕組みがいるということである。
トップがいっているから「仕方なくやる、またはやるふりをする」のではなく、「女性管理職を増やすのもいいけど、ほかの事業部でやってよ、でもボクのところは困るよ」というNIMBY(Not In My Back-Yard)的な態度でもなく、それぞれの所属で「自分ごと」として進めるのでなければ、それはたちまち停滞してしまうだろう。
日本IBMは、同調査で3年連続総合トップであるが、中でも管理職登用度が高いことに特色である。2006年に当時の同社取締役であった内永ゆか子氏をインタビューしたときのコメントが印象深い。内永氏は、成功のポイントととして、理論的に目標数値を設定したことと、女性活用の実績が評価につながることを指摘した。女性活用はグローバルな企業戦略なので、定期的に米国本社の最高経営責任者(CEO)に報告する。その結果はトップの評価に影響し、さらに下の役員に、さらに部長クラスの評価へとつながる。女性活躍が自分の評価につながるとなれば、その育成に本腰が入る。管理職のポストは男性のものと知らず知らずに自分が持っていた固定観念が取り払われ、成長を促すような仕事のアサインが性差を問わず優秀な人材に与えられるだろう。
同調査3位の第一生命保険常務執行役員の長濱守信氏は、7月4日に開催されたヒューマンキャピタル2013EXPOTokyoの基調講演で、「何のために女性活躍を推進するのか?この答えが必要です。女性登用には好事例の"見える化"が重要です」と指摘した。同社では、エリア職(旧一般職)の女性のキャリア開発に注力してきたが、3年前から、社長以下全役員や推進担当者全員が参加する400人規模の社内の大会(写真)で、好事例を発表している。取り組みを進めた結果、成約件数が増えた、保険料収入が増加した、売り上げに貢献したと、当該の女性たちが発表するのである。エリア職の女性たちがここまでやるのかと、会場にはどよめきと共感が広がるという。「女性活躍の成果や企業収益への貢献を見える化して、男性側に腹落ちさせています。これが推進の鍵です」(長濱氏)。
トップのコミットメントはあるかどうか、目標達成や評価制度など、経営層・管理職層が自分ごととして取り組む仕組みがあるかどうか。この2つが、女性が活躍する企業、ダメな企業のひとつの分かれ道ではなかろうか。
(日経ウーマン発行人 麓幸子)
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