稼ぐための苦手な仕事はパーツに分けて考える
「稼ぐための仕事」こそ、誠実にやる
キャリアについて語る時、私はよく「右手にライフワーク、左手に飯の種」というキャッチコピーを使う。「一生をかけるべき仕事と稼ぐための仕事を、手放すな。」好きな仕事で稼げる人は、ごく一握りだ。家族を守るためには、お金にならない仕事に執着したり、選り好みをしたりしている暇はない。与えられている仕事は、誰かがやらなければならないものだ。責任を果たして初めて、報酬が出る。ただし、劣悪な労働条件やパワハラに甘んじるのは話は違う。そこも含めて、職場における自分の仕事を客観視しておきたい。
昨日より今日、今日より明日の方が、いい仕事ができるよう成長したい。仕事の先にいる顧客や仲間に喜ばれたいと思えば、好きではない仕事でもスキルが上がる。気がつくと、「飯の種」が「ライフワーク」に昇華していることもある。だから、会社を利用していかに楽をするか、自分基準の発想しかない社員に出会うと悲しくなる。
退職した時、あなたに残るのは何だろうか。今や、70歳近くまで働く人が増えている。人に教えられる経験とスキルが無ければ、退職後の仕事の幅は圧倒的に狭くなる。自分本位の仕事をしていれば、人脈も次第に途切れていく。今、誠実に仕事をすることは、将来に向けた貯金でもあるのだ。
仕事ができるようになりたければ、自分の関わる仕事のスキルをパーツに分けることを勧める。営業なら「企画力」「プレゼン能力」「データ分析力」「書く力」「PCスキル」「コミュニケーション能力」「打たれ強さ」「共感力」「事務処理能力」などに分けられる。このうち、自分が得意としている力はどれか。今の仕事のやり方は、そのスキルを生かせているか。弱点をカバーするには何が必要か。
知識なら、学べばいい。経験なら、実践を重ねるしかない。ベテランの経験談を聞き集め、持ちネタを増やすこともできる。絵が好きなら、イラストを使って説明すればいい。話すのが苦手なら、資料を充実させ「読ませる営業」を目指す。台本を書き、読むトレーニングを積んで苦手意識を取り除いてもいい。数字に強いなら、データ分析をして会社に貢献する。周りに提供する。やるべきことは、いくつでも見つかる。
苦手だった営業の仕事
私の最初のキャリアは塾講師であり、そこで管理職になった。国語の授業をするのは好きだった。子どもたちの伸びる力を引き出し、アシストする。そのための教材や授業の工夫は苦にならない。「好き」がそのまま仕事になっている幸福な時間だ。しかし、仕事の100%が好きなパーツでできているわけではない。
正直なところ、営業は苦手だった。特に営業電話は、冷たく切られるたびに心が折れた。そこで「営業すべてが苦手」「向いていない」と思ってしまうと、給料分の仕事が果たせない。営業のゴールは生徒を増やすこと。その目標から逃げるわけにはいかない。苦手を克服するにはどうすればいいか、考えた。
自分が得意なのは、「書くこと」だ。そこで、冊子型で情報量の豊富なパンフレットを自作した。すぐに捨てられないよう、小中学生の指導内容を見通し、学習のコツを載せた。塾の前に置いたり、保護者が行きそうな歯医者・スイミングスクールなどに持って行ったりした。過去にあった反応リスト(チラシなどを見て電話をかけてきた、問い合わせリスト)に、手書きで一言添えて送る。「友だちが塾に行きたいって」と子どもに言われたら、「これ渡しといてあげて」と該当学年のページに付箋を貼って、すっと渡せる。
電話を30本かけるぐらいなら、仕事帰りに100件、200件とポスティングできた。ポスティング用のチラシは、別に作る。言葉を精選するうちに、セールス文章が得意になった。後に、独立して起業した時に、コピーライティングのスキルが役だった。『売れる!コピー力(りょく)養成講座~ささる文はこう書く』(筑摩書房)という本も出している。学校に通ってコピーライティングを学んだわけではない。苦手な仕事をカバーするために試行錯誤し、実践で磨き続けた結果だと思っている。
同志社大学卒業後、大手進学塾に就職。3年間の校長経験を経て起業。広報代行やセミナー講師、教育関係を中心に執筆を続ける。大阪市の任期付校長公募に合格、2013年4月より大阪市立敷津小学校の校長に着任。著書に『企画のネタ帳』(阪急コミュニケーションズ)、『売れる! 「コピー力」養成講座』(筑摩書房)など。ブログ「民間人校長@教育最前線レポート」も執筆中
[日経DUAL 2016年1月12日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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