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育児に悩む父親たち 「パタニティーブルー」知ってる?

2015/10/28

 子育てに熱心な父親たち、いわゆる「イクメン」の存在はもはや珍しくない。しかしその陰で、仕事との両立でクタクタになったり、育児に自信をなくしたりした結果「パタニティーブルー」と呼ばれる憂鬱な状態に陥る父親たちが目立ってきた。母親の産後うつ「マタニティーブルー」の父親版ともいえる症状だ。今どきのパパたちが抱える育児ストレスに迫った。
全日本育児普及協会が開いたパパスクール(横浜市)

 「とにかく、夜眠れないことがきつい」。東京都内のベンチャー企業で働くAさん(29)はこぼす。1歳8カ月の男の子を育てるAさん夫婦は関西出身。身近に子育てを頼れる親戚はいない。

 子どもはかわいいが、夜泣きがひどく、父親の自分が抱いても泣きやまない。あやし方もわからず、困惑し悩む日々が続いた。夜中に泣き続ける息子の世話で夫婦共に疲れ果て、妻は体調を崩した。

 Aさんの仕事は最近さらに忙しくなり、一方で妻は9月にうつ病と診断された。「仕事と育児と家事を全部こなさなければならない。疲れがたまり、自分自身も限界に近いと感じている」(Aさん)

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 子どもが生まれて幸せなのに、憂鬱になったりイライラしたり、うつ状態になることも。女性がホルモンバランスの変化で出産後に陥るマタニティーブルーの症状だ。この男性版ともいえる「パタニティーブルー」が目立ってきた。父親が同様の症状で悩むことを指し、パタニティーは英語で「父性」の意味だ。

 関西医療大学講師の板東正己さんによると、パタニティーブルーの典型的な症状はこうだ。「妻の妊娠時から不安やいら立ちが高まり、生後3カ月ぐらいまで頭痛や不眠、下痢や便秘が続く」。その後、体の症状は軽くなることが多いが「育児期もストレスが悪化すれば、妻や子どもに否定的な感情を抱くようになることもある」という。

 パタニティーブルーに陥るのは、初めての子育て時だけではないようだ。東京近郊に住むBさん(33)は今年、2人目の子が生まれた。「平日は仕事で育児ができない分、土日は世話をしている」と自負するBさんだが、乳幼児2人の子育てで疲れがたまりストレスを感じている。「妻も疲れており、イライラしてぶつかることもある」と話す。

 なぜこうしたパタニティーブルーは起きるのか。男性の育児に詳しい東レ経営研究所の渥美由喜さんは「女性は妊娠でホルモンバランスが変化し、体も心も母親への準備が徐々に進む。でも男性は自覚を高めにくいまま子どもが生まれ父親になるため」とみる。「イクメンになると張り切っても、いざ生まれると子どもの抱き方やあやし方が分からず、自信をなくしてしまう」(渥美さん)

 男性の育児への周囲の無理解や、悩みを共有できる相手がいないのも一因だ。育児休業や時短勤務の取得を求めても、職場の上司や同僚から理解を得られず、悩みを共有できずに孤立してしまいがち。そこに仕事と育児の疲れがたまると、ストレスが悪化するというわけだ。

 父親の育児参加を支援するNPO法人、ファザーリング・ジャパン(東京・千代田)の安藤哲也代表理事は「乳幼児期は子育てにおいてとても貴重な期間。何とか働き方を変える努力をして接する時間を増やしてほしい。時間管理能力もつき、仕事へのメリットも大きいはず」と話す。

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 厚生労働省によると2014年度の男性の育休取得率はわずか2.3%。男性正社員の30%は取りたくても取れていない。このため、国も男性の育休取得を後押しする。厚労省は昨年から、部下の育児参加を支援し、自らも仕事と生活のバランスを取る管理職を表彰する「イクボスアワード」を始めた。「育休が取れない空気を変えるには管理職の意識改革が必要。残業時間を減らし、業務効率が上がり経営によい循環を生んだ事例を広めたい」(同省)

 同じように育児を担う父親とつながるのも、孤独感を和らげる。父親向けの子育て講座「パパスクール」を手掛けるNPO法人、全日本育児普及協会(横浜市)の佐藤士文代表は「一人で悩まず、悩みを共有できる場があると知ってほしい」と話す。

 では、育児に悩む夫に妻はどう向き合えばよいのか。東レ経営研究所の渥美さんは「相手の立場になって考えるのが重要。悩む夫は育児のアドバイスを一方的にされるより、話を聞いてほしいはずだ」と話す。育児の大変な時期を共に乗り越えた経験は、夫婦の信頼関係を強くする。育児ストレスをそんなふうに前向きに捉え直してみてはどうだろうか。(小柳優太)

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■父親向け休暇「効果あり」、スウェーデンの担当相に聞く

 

父親たちがパタニティーブルーに悩む原因の一つは、育児を担う男性が少なく、孤独感を感じやすいためだ。一方、スウェーデンでは男性の9割が育児休暇を取るなど、父親が積極的に子育てに関わっていることで知られる。来日したオーサ・レグネール児童・高齢者・男女平等相(51)に、男性の育児参加を増やす方策を聞いた。
来日したスウェーデンのオーサ・レグネール児童・高齢者・男女平等相

 我が国は1974年、世界で初めて両親が取得できる育児休暇を導入した。1995年にはこの休暇の中で、父または母のみが取得でき、相手に譲れない1カ月の「パパ・ママ・クオータ」期間を設けた。

 2002年に2カ月に増やしたのを機に、父親の休暇取得はぐんと増えた。男性が取った育児休暇の日数の比率は24.5%(2012年)に達し、1日でも育児休業を取った男性は9割を占める。2016年1月には、さらに3カ月に延ばす。より多くの男性が取得すればするほど、男性が育児をするのが普通のことになるからだ。

 1970年代に夫婦合算の課税方式を個人単位に切り替えたことで、女性の労働参加が増えた。介護や保育サービスの整備で女性が働きに出やすくなり、同時に新たな雇用機会も生み出した。家庭と仕事の両立が可能な社会を実現するには、政治および民間部門のリーダーシップが不可欠。安倍政権が男女機会均等を重視するのは非常に意義がある。

 変化には時間がかかる。男性の育児参加が進んでいるといわれるスウェーデンでも、男性が取得する育休日数の割合は約25%で、まだ五分五分の分担にはなっていない。父親は子どもとスポーツやピクニックに出かける時間が多い。一方で母親は掃除や洗濯を担い、さらに子育てにも時間を割いている。女性は不当に多くの責任を負っているが、これもよりよい分担に向けて変わっていくだろう。

 父親の育児参加は男女平等の問題だけでなく、子どもが両親双方と一緒に過ごし、関係を築く権利のためにも必要だ。親であることは男性にとっても決してオプションではない。子どもと過ごす時間は人生において貴重で、従業員にその機会を提供する職場は魅力的で、成長が見込めると期待できる。

 男女が労働市場に参加し経済成長を支えるには、家事や育児など無償労働を男女双方が担えるよう社会を変えねばならない。社会が(伝統的でない)新たな性別役割を受け入れることは、夫婦にとってはもちろんのこと、経済の側面からも理にかなう。そうでないと、わずかな担い手で多くの人を養う社会になりかねないからだ。(聞き手は南優子)

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