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仕事と子育ての両立支援に取り組む企業を認定する国の「くるみん」制度に4月、新たな仲間が加わった。「プラチナくるみん」だ。女性が両立しやすいことはもちろん、男性の育児を後押しし、働き方を見直すことが認定のカギを握る。少子化対策だけでなく、女性の活躍推進のために重要だ。どこまで広がるだろうか。

リコーの長瀬さん(右)は育児休業とフレックスタイム制度を活用する

リコーの長瀬さん(右)は育児休業とフレックスタイム制度を活用する

「男性の育児休業取得率23%」。リコーの2013年4月~15年3月の実績だ。全国平均の2.3%(14年度)はもちろん、国が20年までの目標に掲げる13%を大きく上回る。同社は5月、プラチナくるみんの認定を受けた。

3人の子どもがいるリコー人事部の長瀬琢也さん(36)は3月から約3カ月間、育児休業を取った。育休中の妻と子育てを分担、食事の支度は全面的に担った。育休が明けた今も保育園の迎えを担当するなど、子育てに積極参加する。

「日々の成長を見ることができる貴重な経験。家事・育児を分担し、妻の仕事を応援したい」と話す。職場では集中して働き、大事な情報を同僚らと共有するよう心がけているという。

リコーが男性の育休に力を入れたのは10年から。「育児=女性という固定的な考えは女性の育成を進める上で壁になる。男性の育休は、働き方を見直すきっかけにもなる」(ダイバーシティ推進グループの児玉涼子リーダー)。14年4月には、フレックスタイムと午後8時以降の残業の原則禁止を組み合わせた制度を導入した。よりメリハリのきいた働き方ができるようになり、長瀬さんはこの制度を活用中だ。

プラチナくるみんの先輩格は、次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づき07年から認定が始まった「くるみん」だ。次世代法は企業に両立支援のための行動計画を立てるよう求めており、一定の基準を満たすと認定を受けられる。認定マークは商品などに付けることができ、税制面の優遇がある。

次世代法は当初、今年3月までの期間限定だったが、一層の取り組みが必要として10年間、延長し内容も見直した。柱はプラチナくるみんだ。認定にはより高い水準が求められる。

例えば男性の育児の場合、くるみんの条件は「行動計画の期間中に育児休業1人以上」だ。プラチナくるみんだと「育児休業13%」などとなる。長時間労働を見直し、有休取得を促す策の基準もある。男性を含めた働き方を見直さないと、なかなか手が届かない。

厨房機器を販売するホシザキ東北(仙台市)は、男性の育休取得率が36%(12~14年)に上る。最初の取得者が出たのは10年と早くはない。急速に広がったのは、職場の雰囲気作りが功を奏したためだ。育休を取得した人は「育休レポート」を書き、社内ネットで公開した。必ず上司の直筆のコメントを付け、会社として応援している姿勢を明確に示した。

取得までの葛藤、この時しかできない体験の喜び……。「レポートを見ることで『営業所でも取れるんだ』などと実感でき、取りやすい雰囲気ができていった」と総務課の高橋真弓さんは振り返る。労働時間の削減には細かく数字を把握し取り組んだ。「生産性や、社員のモチベーションも上がってきた」という。

イトーヨーカ堂は14年、育児のために利用できる年5日・有給の休暇制度を設けた。男性の育休取得者はまだ多くないが、休暇制度の利用率が高く、全体で69%とプラチナくるみんの基準を満たした。大事なのは男性の育児が点ではなく面として根付くことだ。こうしたやり方も有効だろう。

プラチナくるみんの課題は認定の動きがどこまで広がるかだ。厚生労働省によると認定企業は全国でまだ13のみ(6月末現在)。プラチナを目指すには、くるみんを取得していることが前提だ。くるみんの企業は年々増えているが、それでも企業全体の割合から見れば決して高くはない。

政府は「女性の活躍推進」を成長戦略の柱に掲げており、国会は「女性活躍推進法案」を審議中だ。女性の育成や登用を後押しする推進法案に話題が集中しがちだが、誰もが両立しながら働きやすくする次世代法は、いわば車の両輪だ。

ニッセイ基礎研究所の松浦民恵主任研究員は「この10年で両立のための制度は整い、『男女ともに育休が取れる』という意識は高まった。だが第1子出産を機に仕事を辞める女性が多い状況は変わらず、男性の育休取得率も全体としてみるとまだ低い」と指摘する。

いずれも壁になっているのは、長時間労働だ。「プラチナくるみんの認定基準はここに踏み込んでおり、評価できる。すぐに認定を受けることは難しくても、企業は残業しないと評価が下がるような職場風土がないかを点検し、場合によってはトップダウンで残業削減や有休取得に取り組むことが大切ではないか」と話していた。(編集委員 辻本浩子)

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