WOMAN SMART

朝・夕刊の「W」

広がる女性の子連れ海外赴任 「我が子も成長」

2015/7/11

海外赴任を自らのキャリアや子どもの成長にとって良い機会と考え、子連れで挑戦する女性が増えてきた。多様化する働き方の最前線の女性たちの日常を追った。

「多国籍の人たちがいる環境で子どもを育てたい」。穐吉なな子さん(32)は2014年12月、リクルートを退社し日系ベンチャー企業のシンガポール支社設立に加わった。6歳の息子と、住み込みシッターとの3人暮らし。英国留学の経験がある穐吉さんは海外ビジネスに挑戦したい、子どもは海外で学ばせたいとずっと考えていた。東京で自らの会社をつくったばかりの夫は離ればなれだが「お互いの夢に挑むチャンス。テレビ電話があるしアジアはすぐに会いに行ける距離」と後押しした。

穐吉さん暮らすシンガポールでは住み込みのシッターさんが家庭を支えてくれる

シンガポールは教育水準が高く、成長する国ならではの躍動感がある。新規事業の始動などゼロからイチを生み出す経験は、大変ながら刺激的でやりがいを感じる。飛行機で東京から7時間半、夫は2週に1度会いに来る。平日は徹底的に働き、週末は家族でのんびり動物園に行ったり、海に行ったり。「東京でお互い忙しくしていた頃より、かえって家族の時間が増えたかもしれない」と笑う。

安原理紗さん(35)は「子どもも自分も多様な社会で力を試したい」と11年、外資系金融機関の日本支社からシンガポール支社へと転勤を願い出た。シンガポールでは女性が子育てしながら働くのは当たり前。東京では子どもがいるため軽い仕事を割り振られたが、今は皆が平等だ。思い切り力を試せる。

■自分の時間持つ文化

業務の知識を高めたいと12年、シンガポール国立大学の経営学修士(MBA)コースに通い始めた。「日本ではMBAを取得しようなんて考える余裕すらなかった」。家事や育児を外注できる環境が整っていることはもちろん、「ここには働く女性が自分の時間を大切にする文化がある」と実感する。昨年は昇進を果たし、第2子も出産。公私ともに充実している。

「広い世界にはこういう世の中があると、子どもに体感してほしかった」。外務省で書記官を務める有吉留実さん(42)は3年前、バングラデシュへの赴任を打診された。同じ外交官の夫とパリに赴任していたときのことだ。夫は東京へ戻り、当時6歳と9歳だった子どもたちは有吉さんとともにバングラデシュの首都ダッカへ向かった。

急激な経済成長の過程にあるダッカは大気汚染がひどく、停電は日常茶飯事。蛇口をひねれば黄色い水が出てくる。治安は決して安心できる環境ではなかったが、あえて子どもを帯同した。大人以上に子どもたちの順応は早く、学校の友人らと障害や貧困のための寄付活動に取り組み、「地球人」として育っていると実感する。

生活では課題が多いものの、意外なことに仕事をする女性にとっては働きやすい環境が整っている。日本大使館の広報として仕事が忙しい時期は深夜に及ぶこともあるが、家事や子どもの送迎、留守番までお手伝いさんが主婦としての仕事を一手に引き受ける。自身を「ダメ母」と笑いながらも「良き母、良き職業人としてこうあらねばならないというプレッシャーがないことが、何より働きやすい」。

ワークライフバランスへの理解も深い香港で働く高島さん(右から2番目)

■シッター費用を補助

三菱商事は数年前から常時2~3人の女性が子連れ赴任していることを受け今年、勤務中のベビーシッターなどの補助制度を導入した。「女性活躍のため制度を見直す時期が来た」と広報部の中村健介さんは話す。

高島知子さん(36)は昨年3月から9歳の娘と香港に駐在している。通常の打診より数カ月早い半年前に提案を受けた。商社でのキャリア形成上、海外勤務は欠かせない。子どもも海外経験をさせるには絶好の機会だった。不安はあったが医師の夫とじっくり話し合い、下見に行って生活環境や安全を確認できたことが一歩を踏み出すきっかけとなった。

着任から1年は両親が代わる代わる手伝いに来て、メイドの家事指南をしてくれた。「今では私以上に和食のレパートリーが豊富」という。日本にいた頃は家事代行を頼むことに抵抗があった。夫と家事育児を分担し慌ただしく追われる毎日で、仕事量を抑えざるを得なかった。今は娘を送り出して朝7時45分から仕事に取りかかり、効率的に仕事を進めて午後6時半には帰宅。家に着いた瞬間から、付きっきりで子どもと過ごせる。

唯一の悩みは長期休暇の過ごし方。海外には日本の学童保育のようなサービスがないため夏に一時帰国を予定する。三菱商事は今夏から東京・丸の内の本社で「MC学童」を開き、プールや大手塾講師による学習指導などの充実したプログラムで働く母親の安心を支える。高島さんの娘も今から参加を楽しみにしている。

女性の活躍をうたう一方で、日本社会には子どもを預けて働くことへの抵抗感が根強く残る。女性を取り巻く無言の圧力から解放される海外こそ、自分らしい働き方、暮らし方を再考する新天地なのかもしれない。

(松原礼奈)

■支援策、企業も前向き

企業の海外赴任の支援制度は広がっている。住友商事は2014年11月に「子女のみを帯同する海外勤務者サポート制度」を制定した。引っ越し荷物重量の上限引き上げや補助費用の拡充、現地での保育費用の補助など、これまで個別対応してきた例を制度化した。女性活用や海外展開が急速に進む中で上司にとっても女性のキャリアプランを描きやすくするのが狙いだ。

大和総研の広川明子主任コンサルタントは「00年以降、各社が総合職女性の採用を強化してきたことで、30~40代の女性が海外赴任する例がここにきて急増している」と指摘する。資生堂など配偶者の海外勤務に合わせて休職できる制度があり、男性が休職して帯同する事例も増加している。さらに商社を中心に、出産・育児期の前に管理職であるマネジャー級の経験をさせるなどキャリアの前倒しを進め、次世代人材の育成に力を入れている。

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