アクサ流「女性の逸材」の育て方 副CEOに聞く
ドゥニ・ドゥベルヌ氏
――9月に「世界女性会議」を開きます。どのようなものですか。
「各国の経営メンバーと女性エグゼクティブ、ダイバーシティーの責任者ら120人ほどがパリ本社に集まり、女性の存在感を高め、経営に参画してもらうにはどのような施策が必要なのかを話し合う場です。狙いは、ダイバーシティーがいかに重要な経営課題として位置付けられているかを、世界中のグループ社員に周知させること。会議をきっかけに女性同士の交流や連携も促したいと考えています」
――経営トップの一人としてダイバーシティーの責任者になりました。
「企業文化にダイバーシティーを浸透させるには、トップが責任者となって指導していくことが大切です。人材の多様化を進めれば、必ず企業の成長に結びつく。アクサグループには世界で約16万人の従業員がいますが、2009年時点では293人いたグループ会社のシニアエグゼクティブ(CEOや取締役)のうち女性は9%と非常に少なかった。これが現在は15%まで高まっています。エグゼクティブ(執行役員)では26%、1人以上の部下がいる管理職では40%が女性。トルコのように女性が管理職の半数を占めるところも出てきました」
――大きな成果を上げることができた理由は。
「2つあります。1つは主要なグループ会社の幹部候補の選抜会議で、幹部らが女性登用を強く意識するようにしたこと。毎年開かれる会議では、重要ポストが空席にならないように、後継候補者を1000人強に絞り込んでいく。もともと女性の昇進を意識して始めたものではありませんが、私がダイバーシティー担当になってからは、意識して女性をリストアップするようにしました」
「女性登用のために導入した『スポンサーシッププログラム』も効果を上げました。会長兼CEOを含むトップ17人(エグゼクティブコミッティメンバー)が、トップになる潜在力の高い女性候補のスポンサー(支援者)になる制度です。対象の女性候補1人には原則、1人の支援者をつけます。支援者は強い影響力を駆使して、女性候補の組織の中での露出の機会を増やす。育成をサポートし自信をつけさせ、役職に就くチャンスも提供する。定期的にカウンセリングを行い『昇進させていい』と判断したら、CEOなどに指名。支援者はその後もフォローを続け、登用した結果に責任を持ちます。12年は33人の女性CEOやCEO候補にプログラムを実施しました」
――担当者はかなりの時間を割くことになる。負担になりませんか。
「もちろん負荷はかかります。だが、私どもの事業はサービス業であり、会社の成否を担うカギは人材の質がどのくらい高いか、ということに尽きる。人材の登用や育成に時間を割くのは当然です」
「従業員のために、会社が成功するために、お客様のために、そして地域社会のためにダイバーシティーは必要。すべての従業員に平等に昇進の機会を与えられればモチベーションは高まります。多様な人材を持つ企業ほど業績が良いという実証データがあるように、企業の成長にとっても重要な課題です。当社には男女問わずさまざまなお客様がいて、最適な商品を提案しなければなりません。多様なお客様に対応するには会社自体が多様性をもっていなければならない。多様性のある企業であることは、結果的に社会貢献にもなります」
――埋もれていた女性幹部候補は発掘できましたか。
「まだ十分とはいえない。女性は慎重です。この仕事に就ける、やれるという確信が99%持てないと『できます。昇進させてください』と手を挙げない。自信のレベルが60%であっても『できる』という男性とは全くちがう。ただ、きちんとしたプロセスを踏んで、女性にも男性同様に昇進できる機会を整えたことで、各国のグループ会社のトップは女性の登用を強く意識するようになりました」
「アクサがダイバーシティーに取り組み始めたのは06年、他の企業に比べれば遅いほうでした。当時から幹部の意識が低かったわけではありません。ただ現状を変えなければいけないと思うほどの明確な理由が見いだせず、ダイバーシティーの目標を設定していなかった。『変えなければいけない』という意識をグループに定着させるには、目標を設定して成果や企業の成長にどのように結びついたかを確認し続けることが大切。経営幹部全員で変革する覚悟を共有することが重要でした」
――意識を変えるために具体的にはどんなことをしましたか。
「たとえば11年には性差や年齢、身体的な障害などに対する先入観をあぶり出す『ジェンダーアナリシス』調査を実施しました。調査でダイバーシティーの阻害要因として浮かび上がってきたのが『無意識の偏見』でした。性に対する先入観は自分では気づきにくいもの。それをなくすために経営幹部に啓発を行い、各国ごとの課題を解決するためのアクションプランを導入し、全社員に先入観を気づかせるためのeラーニングも実施しました」
「無意識の偏見は、実は私にもありました。女性の経営幹部に海外赴任をオファーするのはよくないことだと思い込んでいたのです。女性は家族のためを思ってオファーを受け入れるのが難しいだろう、という先入観からでした。このことを認識してからは、女性の経営幹部にも積極的に海外赴任を打診し、結果的に多くの女性が喜んで海外に赴任していきました。家族とともにね」
――日本では女性登用の数値目標について議論があります。
「アクサではグループのシニアエグゼクティブに占める女性の割合を、15年までに25%にする目標を掲げています。現在は15%だから、かなりハードルが高いけれど、遅くとも17年には達成したいと思っています」
「数値目標には2つのタイプがあります。1つは純粋な目標。もう1つはクオータ制(割当制)と呼ばれるもの。フランスでは上場企業の取締役会の女性比率を40%にする割り当て目標が設定されていますが、個人的には反対です。割り当てることが目標になると、人材の質で妥協してしまう可能性もありますから」
――では女性登用において優先すべき経営施策は何ですか。
「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)が実現できる職場環境の整備は何より優先してやるべきこと。女性が昇進をあきらめてしまう理由の1つに長時間労働があります。アクサでは在宅勤務制度やワークシェアリングなど、多様な働き方ができる制度を各国の状況に合わせて導入している。19時以降は会議を開かない。業務時間外はメールを送らない。送ったとしても業務時間外の返信は求めないなど、職場での行動規範も今年制定しました。本社では毎週決められた曜日に在宅勤務を行うなど、一定のルールをのもとにフレックスワークを実施しています」
「女性の経営幹部候補を登用する中で確信したことがあります。女性は職務に対する強い責任感やポジティブなアイデア、人の気持ちを察する優れた能力や共感力を持っているということです。だから、女性をもっと登用していくべきなのです」
(聞き手は女性面副編集長 松本和佳)
9月23日(月)BSジャパンの「日経プラス10」(夜10時)で日本法人アクサ生命保険のジャンルイ・ローランジョシ社長のインタビューを放映します。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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