キャラ弁を超える「のりカッティング」パパ弁当
イベントで滝村さんと一緒に厨房に入るのは、日本パパ料理協会の飯士(はんし)。この日、担当だった船山パパ飯士は、協会内でも注目を集めるパパなのです。その理由は……とにかく料理が凝りまくっているからです。本人が「アート系料理」と呼ぶ、まさに芸術作品の域にまで達した料理にたどり着くまでにはどんな経緯があったのか? そしてなぜそんなにも凝るのか? いよいよ、アート系料理にハマっているパパを直撃です。
――料理人をしていたってわけではないんですよね?
船山 「違いますね。今は設備メンテナンスの企業に勤めていますし、それまでにも料理を生業にしたことはありません」
――結婚する前から料理はしていたんですか?
船山 「母の手伝いレベルですね。でも、結婚してから変わっていったんです」
早起きが苦手な妻に代わり、朝食のだし巻玉子を作ったのがきっかけ
――きっかけは何だったんですか?
船山 「妻が朝弱かったんです。土日はなかなか起きてこない。当然、おなかが空くので自分で作り始めました」
――その頃からもうどんどんのめり込んだんですか?
船山 「最初、どういうわけか"だし巻玉子"を極めようと思ったんです。もともと凝り性で基本的にオタクなもので、本を読んだり、お店で食べたものを参考にしたりとかしながら試行錯誤。そうやって料理を頑張っているうちに妻が開いたホームパーティーで披露したら大好評だったんです。それで完全に味をしめましたね。わー料理って楽しいって」
――分かります、喜んでもらえるとうれ嬉しいですよね
船山 「そう、そこなんです。料理に凝るのもそこからスタートしました。何より娘に喜んでもらいたくて、今、小6の娘が保育園の頃にいわゆるキャラ弁を作り始めたんです」
――本当にすごいですよね…しかもそれがさらに進化することになる。
船山 「やっぱり"家族をアッと言わせたい"という思いは強いわけです。そうなると、同じものではいけないわけで、もっとすごいものを、もっとすごいものを、となっていくんですよ。そういう中でたどり着いたのが"のりのカッティング"という技です」
のりのカッティングは切り絵からヒントを得て。下絵から取り掛かる
――ほう、なぜそこにたどり着いたんですか?
船山 「キャラ弁を作っていくと気が付くんですけど、いわゆる絵を描くときなどに重要な"輪郭"というか"アウトライン"を作ることができないんです。そこで、ふと思い出したのが、母がやっていた切り絵。そうか、これはのりを使えばできるぞ、とひらめきました」
――実際、どうやってのりをカットしてるんですか?
船山 「まずは下絵を描いて、それをクリアファイルに写す。そこにのりを挟んで下絵に合わせて切ればいいんです」
――下絵を描くんですか
船山 「必要なときは設計図も描きます」
――すご過ぎます…(唖然)。それがうまくいって大好評だったわけですね?
エンジニア魂に火をつけた娘の反応
船山 「それが…実は、最初失敗しているんです」
――何があったんですか?
船山 「最初にカットしたのりを使ったのはお弁当で、娘が蓋を開けて"わーすごい"ってなることを期待していたんですが…」
――娘さんにはヒットしなかった、とかですか?
船山 「いいえ。蓋の裏側に全部貼り付いてしまったんです。蓋を開けたらのっぺらぼう、みたいな…」
――悲劇ですね~
船山 「そうですね…でも、そこで"同じ轍は踏まないぞ"という感じでエンジニア魂に火が付いて完成形に近づいていったんです。それでできたのがひな祭りのちらしずしです」
キャラ弁を超えて、作品は3Dに変化を遂げてきた
――もはや、キャラ弁を超えましたよね。
船山 「はい。もうオリジナルですね。で、さらに進化させて今や立体になりました。今年は母の日にごはんをスポンジケーキのように成形して、はんぺんを裏ごしして作ったクリームでデコレーションした"お赤飯ケーキ"を作りました」
――奥さんも娘さんもさすがにびっくりしたでしょうね~。でも、こうやって毎年進化させるのは大変じゃないですか?
船山 「常に次のモチーフを探していますよ」
家族の幸せの象徴を強いインパクトで残しておきたい
―家族の喜ぶ顔が見たいっていう気持ちはわかりますけど、そこまでできるのが本当にすごいですよね。
船山 「実は、もう一つ理由があるんです。特にちらしずしについては、幸せだった思い出を強いインパクトで残したいんです。それが幸せの象徴というか。これから先、うちの家族にもいろいろなことがあると思うんです。でも、そういう時にこのアートちらしずしを浮かべて"あーあんな幸せな時もあったな~もう一度頑張ろう"って思い出して再び立ち上がろうとしたときのキーアイテムになったらいいなと思っています」
―なるほど…。正直、僕はそこまで将来のことを考えてなかったです。これは僕も見習いたいと思います。じゃあ、船山さん、次の料理お願いします。
船山 「滝村さんに任せっぱなしになってた。じゃあ、次はとっておきのものを作りますよ」
料理に大事なものといえば、味、そして栄養、それから料理に込める思いだと思います。今回、船山さんが語ってくれた凝った料理へ込めた思いは、その時だけでなく、その先の人生までも考えられていて、驚くとともに、本当に心に響きました。これからは船山さんの思いを思い出しながら料理を作ろうと思います。今後、船山さんはどんなアート系料理を作るんでしょう? これもまた楽しみです。
兼業主夫放送作家。1976年生まれ。日本大学芸術学部在学中から放送作家としての活動を始める。2002年に結婚。2004年に長女、2011年に次女が生まれる。長女が年長になるタイミングで、それまで保育園任せで二人ともフルに働き乱れてしまった生活リズムを戻すために仕事を減らして「兼業主夫」へ。家庭での担当は「夕食」「トイレ掃除」「ふろ掃除」その他、洗濯や掃除全般。NPO法人「イクメンクラブ」社員、NPO法人「Fathering Japan」会員、子育て親子情報番組TOKYO FM「DOCOMO LOVE Family」構成担当。「旗の台BAL Cero」では毎週月曜日担当。月に1回、各界のイクメンによる交流会「イクメンCero」を開催中。新著『新ニッポンの父ちゃん~兼業主夫ですが、なにか?~』。
[日経DUAL2014年12月4日付の掲載記事を基に再構成]
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