痛恨、新種のチョウをゴミ箱に捨てちゃった…
コスタリカ昆虫中心生活
みなさま、明けましておめでとうございます。2015年の干支(えと)は未(ひつじ)ですが、ちょうど3年前、2012年は辰(たつ)年ということで、辰にちなんだ昆虫の写真はないかと構想を練っていたことがありました。まずはその時の話です。
「う~ん…」
辰にちなんだ昆虫ということで、以前撮影した写真をパソコンで流し見していると、「ん、これはなんか龍に似てる!」と上の写真でマウスが止まった。もちろん本物の龍は見たことがないけれど、小さい頃から絵や作り物を見てきたので、この写真を見た時、ビビッときたのだろう。
この昆虫は、以前「ピーナツのような頭をした『マチャカ』伝説」でご覧いただいた、ユカタンビワハゴロモの仲間でフリクトゥス・キンケパルティトゥスといいます。こちらはなんと、「龍の顔」をしています。そして、同じ回の「アリやカタツムリが群がる『甘いオシッコ』の正体」に登場したビワハゴロモと同様、この「龍」ビワハゴロモにもカタツムリたちが甘露オシッコ(糖分を含んだ液体の排せつ物)を頂戴しにやってくる。
どうです、どことなく龍に似てませんか。
まさか、このチョウが新種だったとは…
さて、続いては大学院を下見したり、スペイン語を磨いたりするためにコスタリカを訪れていた1997年の話。
標高3000メートル級の高山の一帯で、蝶(ちょう)や昼間飛ぶ蛾(が)を調査するというので同行させてもらった。初めての野外採集に胸躍った。ぼくはまだ、コスタリカの蝶のことなど何も知らなかった。
赤道近くのコスタリカであれ、高山となれば年中寒い。昼間なのに寒い。晴れていても気温は15度。夜は0度近くまで下がる。足を進めるが、辺りはとても静かで、蝶が飛ぶ気配もない。他の虫たちもそう見かけない。
空気が薄いので、知らずと深く息を吸っていた、そのときだ。20メートルほど先の林道を、モンシロチョウのような白い蝶が横切った。
あわてて駆け足でそこへ急ぐ。あっ、まただ。今度はこっちに向かって飛んでくる。
網を構える。ジャーンプ、…蝶は網の中に入っていた。後でもう一匹、必死になって網を振り回しながら追いかけ捕まえた。息苦しかったけど、気持ちよかった。
家に着いて、翅を広げてみるが、2匹のうち、1匹は翅(はね)が少しボロボロだったので、ゴミ箱へ捨てた。後日、蝶の専門家に見てもらうと、なんとそれは新種だった。
ゴミ箱をあさるアホな自分…。すでにその蝶はゴミ焼却所へと向かった後だった。
痛恨。
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学でチョウやガの生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
[Webナショジオ 2012年1月17日、同1月31日付の記事を基に再構成]
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