熱帯の楽園、カリブ海のビーチで「紅葉」発見
コスタリカ昆虫中心生活
ぼくは日本の秋が好きで、どうしても山の紅葉が恋しくなる。特にこの季節、恋しくなる。熱帯のジャングルを歩いていると、葉のさまざまな緑が目を和ませてくれるのだが、時々ちらほらと、色づいた葉に出会うことがある。一枚の葉がなんらかの影響で変色して、緑の中にぽつんとある。
でも、そんな色づいた葉は簡単に出会えるものではなく、それほど目立ってもいない。ぼくが紅葉を意識しているからこそ、目に映るのかもしれない。いつの間にか、熱帯で色づく葉は、ぼくにとって貴重な存在になっている。
上の写真の葉は、カリブ海側にある国立公園の海沿いに生える木で見つけた。そこは砂浜がきれいな国立公園。ビーチを訪れる海水浴客や観光客は、海やヤシの木、サルやナマケモノの写真、家族や友人たちの記念写真なんかをバシバシカメラに収めていくが、ぼくだけなぜか、色づき朽ちていく葉を左手にもって、バシバシシャッターを切っていた。
パークレンジャー(公園管理人)や海で泳いでいる人たちは、ぼくのことを不思議そ~うに見ていた。どうやら、葉っぱの写真を撮る光景だけが原因ではないようだ。なんでやろう…。
そう、ぼくは暑い中、いつもの昆虫採集のいでたち=縁あり帽子に、ハエの目のようなサングラス、そして長袖長ズボンのレインウェアを身にまとい、腰からは大きく膨らんだ緑のゴミ袋をぶら下げていたからだ。
枯れ葉になりすまして…
四季のない熱帯コスタリカでは「紅葉」などほとんどないが、「枯れ葉」はある。地表を覆うたくさんの枯れ葉を見かけることもあり、そこは多様な生き物たちの大切なすみかとなっている。
なかでも、枯れ葉の環境に姿かたちを溶け込ませるように適応しているのが、擬態昆虫たち。ただし、そいつらは見つけようと思って、見つけられるものではない。思いもよらない時に「まぐれ」で出会うことがほとんどだ。
下の写真のカマキリなんて、翅(はね)が枯れ葉にしか見えない。これで飛び立てるなんて驚きだ。
そうそう、この写真を見ていて思い出した。以前紹介したバイオリンの話です(ちょっと似てないですか?)。バイオリンの中に産まれた2つのヤモリの卵のこと、みなさん覚えていますか。
その一つから無事に赤ちゃんが生まれました。ふ化に135日間は長かった~。もう一つの卵は、バイオリンの中でコロコロとさせすぎたのか、干からびて割れていました。
「ごめんね」
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
[Webナショジオ 2011年11月8日、同11月22日付の記事を基に再構成]
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