気分は自宅でミニシアター 個性派配信サービス続々
多様化する映画配信サービス(1)
コロナ禍によるステイホームの影響で、すっかり身近になった動画配信サービス。NetflixやAmazon Prime Videoなどの大手の配信作品が話題になることが多いが、最近、作品を絞った個性派配信サービスが相次いで登場している。
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自宅で映画やドラマが楽しめる配信サービス。主流は "サブスク"と呼ばれる定額制の動画配信サービスだ。加入していれば、日本映画やハリウッドメジャーのヒット映画にアニメ、ドラマ、ドキュメンタリー、バラエティーなどの大抵のジャンルは楽しめる。だが、映画好きにとっては、往年の名作がなかったり、巨匠の初期作がなかったり……、と意外と自分が見たい作品が見当たらないことも多い。
そんな映画好きをターゲットにした配信サービスが今、注目を集めている。なかでも、80~90年代のミニシアター系作品、昔の名作、ヨーロッパやアジアの巨匠たちの初期作品、アート系作品などに特化した配信サービスが登場している。
毎日1本新作を配信「JAIHO」
今年6月から始まった「JAIHO(ジャイホー)」は映画ファン向けのサブスク。その特色は365日、毎日1本新しい作品を配信し、1作品の視聴期間は30日間で、常に30作品が視聴できるということだ。運営するのは、独立系配給会社のツイン。利用料金は月額770円(税込み)、初回加入のみ、2週間無料で利用できる。
配信作品は多様性を考慮して、世界中のさまざまなジャンルやカテゴリーから映画のエキスパートたちが厳選した映画が並ぶ。具体的にいうと、世界各国で大ヒットした娯楽作から巨匠の名作、世界の映画祭で話題になった作品、各国の映画史に残るクラシック、日本の名作などを網羅している。30本のうち、約半数がJAIHOでしか観られない日本初公開や初配信作品だという。
独自の視点と切り口で組んだ特集にも取り組む。9月はベネチア国際映画祭開催に合わせて、過去に同映画祭で話題になった『アルプス』(『女王陛下のお気に入り』で知られるヨルゴス・ランティモス監督)など、日本初公開作品を配信する。
ラインアップの中には韓国・香港、インド、北欧の作品なども並ぶ。「世界には日本で知られていない傑作がたくさんある。しかし劇場公開では宣伝費もかかるので採算を考えると、公開したくてもできない作品も多い。そんな作品を配信で公開したいと考えました。ターゲットは80年代後半から90年代のミニシアターブームを経験した40~60代の映画ファン、20~30代の映画ファンにも世界の映画祭で喝采を浴びた作品や映画ファン必見の名画を楽しんでいただきたいです」(JAIHO代表の加畑圭造氏)。
ミニシアター系に注力「ザ・シネマメンバーズ」
「ザ・シネマメンバーズ」は、"ミニシアター系のサブスク"というコンセプトの映画配信サービス。CS放送の洋画専門チャンネル、「ザ・シネマ」の配信サービスとして、2018年6月にスタートしたが、2020年4月に現在のコンセプトにリニューアルした。
「大手配信サービスではサイトやアプリを開いたとき、ミニシアター系の作品はない。そうした作品が好きな方々が、ここには自分に関係がある作品しか並んでいないと思える、セレクトの効いたミニシアター系の作品だけの配信サービスを提供したいと考えました」(ザ・シネマ ゼネラルマネージャーの榎本豊氏)
毎月新たに配信開始になるのは2~4本で、配信終了になるものもあり、常時40本ぐらいの品ぞろえ。配信中のラインアップにはエリック・ロメール監督の『海辺のポーリーヌ』、ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』、ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』など、まさに80年代~90年代のミニシアターブームをけん引した監督たちや作品がズラリ。利用料金は月額550円(税込み)。
映画館が手掛ける「APARTMENT」
今年8月11日からスタートした「APARTMENT(アパートメント)」はミニシアターブームをけん引してきた渋谷の映画館Bunkamuraル・シネマが手掛けるサービス。独自に権利を取得した日本初公開作品を中心にオンラインで配信上映する。
「パンデミック以降、劇場が休業を余儀なくされる状況で、米のミニシアター規模の映画興行がヴァーチャルでの可能性を模索していた動きに刺激されて考えたものです。ただパンデミックだから実際の劇場の代替え・つなぎとしてのヴァーチャルではなく、将来につながるような、これまでの劇場運営や映画興行の在り方とは異なるチャレンジをしたいと立ち上げました」と担当する東急文化村美術・映像事業部シネマ運営室の浅倉奏氏は語る。
映画の配信・視聴には動画配信プラットフォームのVimeoを使用。1本ごとに有料鑑賞する。オープニングを飾る2作品は、英国アカデミー賞で『ノマドランド』の7部門を上回る最多8部門ノミネートの『Rocks/ロックス』(サラ・ガヴロン監督)と、往年のロマンチック・コメディー映画の名場面を引用して「ロマコメ映画とは? 愛とは?」というテーマを探求するフィルム・エッセーの『Romantic Comedy/ロマンティック・コメディ』(エリザベス・サンキー監督)。それぞれの価格は1200円。決済完了後48時間以内であれば繰り返し視聴できる。
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コロナ禍の中、映画館に行くのも二の足を踏みがちだが、そんな時に、好きな場所、好きな時間でミニシアター感覚を楽しめるオンライン映画館。次回からは3つのサービスの担当者にセールスポイントやサービスにかける思いを聞く。
【第1回】気分は自宅でミニシアター 個性派配信サービス続々
【第2回】Bunkamuraの配信 ミニシアター作品を自宅に届ける
【第3回】動画配信JAIHO 月770円で毎日1本、新たな映画楽しむ
【第4回】ザ・シネマメンバーズ ミニシアター系名作40本を厳選配信
(ライター 前田かおり)
『海辺のポーリーヌ』(C)1983 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.
『パリ、テキサス』(C) 1984 REVERSE ANGLE LIBRARY GMBH
ARGOS FILMS S.A. and CHRIS SIEVERNICH
PRO-JECT FILMPRODUKTION IM FILMVERLAG DER AUTOREN GMBH & CO. KG
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