梅のシーズンがやってきた。スーパーの店頭には新鮮な青梅や梅酒用の酒瓶、氷砂糖が並び、もう少しすると今度は芳醇(ほうじゅん)な香りを放つ完熟梅が店頭を黄色く染める。初夏の訪れを告げる風物詩だ。
梅干し、梅酒、梅ジャム、梅味噌……。梅を使って仕込む作業は「梅仕事」と呼ばれる。筆者も毎年、完熟した南高梅(和歌山県産)を10種類強の特徴の異なる塩で漬けて、梅干しにしている。使う塩以外、すべて同じ条件にしているが、数年繰り返すうちに、塩によって梅干しの出来上がりが大きく異なることに気がついた。
化学的エビデンスはなく、あくまで経験則での話になるが、以下にその傾向をまとめてみた。せっかく自宅で梅干し作りに精を出すなら、塩にもこだわり、自分好みの「逸品」に仕上げるのも一興ではないだろうか。
▼ナトリウム純度の高い塩で仕込んだ場合(例:食塩=日本海水)
浸透脱水作用が強く働くためか、梅酢があがってくるのが他の塩より早い。出来上がった梅干しは、突き刺さるようなしょっぱさがあり、その分あまり酸味を感じない。皮はぎゅっと硬めで実が引き締まった梅干しになった。乾燥が進むと梅干しが塩を吹き、白くなる。
▼マグネシウム構成比の高い塩で仕込んだ場合(例:粟国の塩=沖縄海塩研究所)
比較的ゆっくりと梅酢があがってくる。この手法で作る梅干しは、しょっぱさと酸味がまろやかで、うまみを強く感じる。皮が柔らかくなり、干す時に気をつけないと破れてしまう。乾燥が進んでも塩を吹かず、柔らかさが持続する。
▼カルシウムの多い塩で仕込んだ場合(例:うるわしの花塩=沖縄北谷自然海塩)
浸透脱水が遅く、なかなか梅酢があがってこない。出来上がった梅干しはしょっぱさがまろやかで、甘味が強い印象だ。実に水分が残るためジューシーだが、皮はかなりしっかりとした硬さ。小梅でカリカリ梅を仕込むのに向いていると思う。

▼海水の成分ほぼそのままの塩で仕込んだ場合(例:雪塩=パラダイスプラン)
パウダー状の塩のため、梅への浸透は早いだろうと予想したが、最初に出てきた梅酢でドロドロに溶け、塩がペースト状になった後の梅酢のあがりがかなり遅い。塩そのもののナトリウム構成比も低いため、梅酢から顔を出していた部分がカビてしまった。完成した梅干しは甘味が強くまろやかで、ほどよい酸味を感じる。皮も実もほどよく柔らかい。