生産者の強みを生かし
収益源を多角化
目指すは年商10億円

――一方、ネギを出荷していない時期の収入確保に向け、カボチャなど他の作物の栽培や、ネギ餃子やキムチなどの商品の企画・販売などにも挑戦したそうですね。

はい、本気で挑戦して全て失敗しました(苦笑)。実感したのは、僕らは野菜という生産物を扱っていて、このジャンルにはとてつもなく大きな競争相手が存在しないから、やっていけているということ。僕らが餃子を1000円で売っているそばで、大手食品メーカーはおいしい餃子を大量に作り、200円程度で売っている。そんなマーケットでは、価格でも物量でも物流でも全くかないません。

農家の収益多角化のために「6次産業化」ということがよくいわれますが、「そこに飛び込むな、生産者としての強みを生かせ」と言いたい。僕は曲折を経て、ネギの苗を売るビジネスという答えにたどり着きました。これなら、本来の強みを生かして収入を得ることができます。この秋からスタートした事業ですが、年5000万円の売り上げを目指しています。

――生産性向上や働き方改革など、マネジメント手腕にも注目が集まっています。

現在はパートを含め40人ぐらいのスタッフがいます。「週2回、8~12時」など選択肢を示して、働き方は自由に選んでもらっていますが、一人ひとり「やること」が決まっていて、全てにおいて作業効率を測り評価しています。

例えば手作業でネギを収穫する「ネギ掘り」は、人によってスピードも違えば丁寧さも違う。そこで、その日に誰が何本掘ったかを表にして張り出したり、うまい人の動画を他のメンバーに見せて違いを解説したりといった工夫をすると、スピードが劇的にアップしました。工夫次第で、生産性はまだまだ上げられるはずです。

――スタッフに支払う給料も上げていきたいとか。

そうですね。今はパートの時給が最高で1100円程度ですが、これを1500円まで上げたいと思っています。ねぎびとカンパニーは今、「年商10億円」という目標を掲げ、全員で達成を目指しています。仕事の生産性を上げ、会社の稼ぎが増えれば自分の給料も上がる。それを分かっているから、皆一生懸命頑張ってくれるのだと思います。

――日本の農業は担い手の高齢化と後継者不足が深刻です。

農業を始めて10年たちましたが、こんなに面白い仕事はないと実感しています。一方で、若い人にその面白さが十分伝わっているかというと、決してそうではない。農業に関心を持ってもらうには、業務改革や労働条件の整備、能力に応じた報酬を払える仕組みづくりに加え、農業自体のイメージを変える必要があります。

僕は農業の世界に素人として入り、栽培法や売り方、働き方まで全て自分でつくり上げてきました。ネギ農家ではなく、「葱師」という新しい職業をやっているイメージです。この姿を通じて、新たな農業の可能性を知ってほしい。初代葱師として、若者たちが持つ農業のイメージを変えることも、自分の使命だと考えています。

『 なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』
清水寅著/講談社/880円(税別)
太さも味も最上級のネギ「モナリザ」を1本1万円で販売するねぎびとカンパニーを率いる著者は、10年前に脱サラして農家に転身。生育データの分析や実験を繰り返し、上質なネギを効率的に生産する栽培法や独自の販売網を構築。自由度の高い働き方や時給の引き上げなど、働き方改革にも精力的に取り組み、魅力ある仕事としての農業の実現に奔走する。金融業界からスタートした異色のキャリアや独自の栽培法、経営哲学を解説しながら、ブランディング手法やビジネス成功の秘訣を説く。
しみず・つよし
1980年長崎県生まれ。金融会社で営業職や系列会社の社長などを務めた後、2011年に会社員を辞めて農業に転身。山形県天童市に移り住み、ネギ農家を始める。工夫を重ね独自に編み出した有機栽培によってできるサイズが大きく、糖度が高いネギが評判に。14年にねぎびとカンパニーを設立し代表に就任。「初代葱師」を名乗り、ブランドネギやネギの苗の製造・販売や農業の発展に尽力する。19年、山形県ベストアグリ賞受賞。

撮影/工藤朋子 取材・文/佐藤珠希

[日経マネー2021年2月号の記事を再構成]

なぜネギ1本が1万円で売れるのか? (講談社+α新書)

著者 : 清水 寅
出版 : 講談社
価格 : 968 円(税込み)

ビジネス書などの書評を紹介