――最初は全くこだわりがなかった「味」の追求にも、早々に取り組み始めたそうですね。

それまで金融業界にいた僕にとって、農業の世界は驚きの連続でした。一番納得がいかなかったのが、作物を売る価格を自分で決められないこと。原価に関係なく、競りで価格が決まってしまうのです。

今、秋冬のネギの平均的な小売価格は3本198円程度ですが、この価格は20年間ほとんど変わっていません。一方で、生産に必要な肥料やガソリンの値段、最低賃金はどんどん上がっている。原価は確実に上がっているのに、最終価格は変わらず、その分をネギ農家が負担してきました。

どうしたらネギの小売価格を上げることができるのか。とことん考えて得た結論が、他のネギより一見して太くて立派だと分かり、味もおいしいネギを作ること。そして、農協に頼らずスーパーや飲食店に自分で営業に回り、直取引で買ってもらうことでした。

――太くて甘いネギの安定的な栽培法をどう実現したのでしょうか。

色々と勉強して分かったのは「栽培方法に正解はない」ということ。覚悟を決めて、思い付くことを全て自分の畑で実験していきました。

例えばうちの畑は、他のネギ畑と比べて圧倒的に雑草が少ない。これは農作業をする際、雑草の種が発芽する条件を極力排除するよう、作業工程を細かく決めて、それを忠実に実践しているからです。コストがかさんでも有機肥料しか使わないし、土をフカフカに保つ工夫も凝らしています。おいしいくて太いネギを効率的に生産する方法を、実験を重ねながら一つひとつ開発してきました。


天童市内に約100カ所ある畑に年300万本のネギを植え付け200万本を出荷。ネギの成長に合わせて土寄せをし、雑草を発芽させない工夫をするなど、太くて甘いネギを安定的に生産する栽培法を独自に開発 (写真提供/ねぎびとカンパニー)

――主力ブランド「寅ちゃんねぎ」は、糖度が20度とフルーツ並みで、2Lサイズで2本298円程度と高単価での販売を実現しました。

「3本198円」の壁を越えるためにあらゆる努力をしました。スーパーや飲食店に持ち込み、バイヤーやシェフに食べてもらい他のネギとの違いを分かってもらったり、メディアに出て宣伝したり。

15年には、3~4Lサイズにまで育ったネギを「真の葱」と名付け、8本1万円で売り始めました。今は毎年限定30セットをネット販売しています。さらに、19年から取り組んでいるのが「モナリザ」という1本1万円のネギです。定植した年300万本の中で数本しか取れない、4~5Lサイズにまで育った素晴らしいネギです。20年は2本で注文を止めましたが、21年以降も販売をしていきます。

超高級ネギも手掛けることで、「あの生産者のネギだったら、2本298円でも買いたい」と消費者に思ってもらえるからです。

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