表層的なテクニックだけでいいの?

――末永さんは、なぜそういうことを考える先生になったんですか?

「私は武蔵野美術大学に通っていた頃からアートって、作品をつくるとか絵を描くだけじゃなくて、アートを通して常識を疑ってみたり、自分らしい視点でものごとを捉え直してみたりするのが面白いとを感じていました。でも、いざ学校現場に行ってみると、全然それとは違って、やはりさやかさんも学校で経験したような、表層的なテクニックを身につけるような授業が多かったんです」

「年に1回、学校で作品展をしたりしますよね。そこでは全部の生徒が作品を完成させて展示することが目標になっている。しかも進みが遅い生徒には最後の2~3日に居残りさせて完成させる。でも私は作品ができるまでの探究の過程が重要だと思っていて。探究の過程が充実していれば、一見未完成に見えるようなものであっても十分評価できると思うんですね」

「アートは作品だけではなく制作過程が重要」と語る末永幸歩さん

――テストの点数や作品自体の出来栄えだけじゃなくて、生徒一人ひとりの成長過程や思考過程を評価するのはアートに限らず今後どの教科にも必要になってくることだと私も思います。ちなみに、プロセスを評価するって、先生は膨大な労力がかかるような気がどうしてもしちゃうと思うんだけど、末永先生はどういう風にされてるんですか?

「私も一度、大学院で学び直しをしたんです。東京学芸大学大学院に通っていて、その附属の中学高校で教えていました。そこでは国際バカロレア教育という、ちょっと特殊な教育をしており、そこの評価方法に影響を受けました」

「バカロレア教育での美術の授業は、『ジャーナル』と呼ぶスケッチブックを生徒に渡して、そこにできあがった作品だけじゃなくて、制作過程で考えたことを文章やイラストなどで書いてもらい、その内容を評価するんです。私の授業でも、授業中に何か疑問を持ったり、思いついたりしたことを全部書いてもらいます。スケッチブックは最終日までずっと書いてもらうので、ものすごい量になります。最終的な作品の出来栄えよりも過程の方を重視するからね、という風に生徒にも伝えていました」

――その評価の仕方を生徒自身がわかっていると授業や課題に対する生徒の姿勢も変わってきますよね。生徒はその授業を受けるとどんな風に変わりますか?

「最初はさやかさんの学生時代と同様、美術なんかもう嫌だという態度で、斜に構えて授業に来る生徒もいます。でもそういう生徒に、例えばピカソの作品を見せるときに、素晴らしい作品ですよ、という見せ方をすると、たぶんそれだけで興味を失ってしまう。だから、例えば『ピカソの絵にダメ出ししてみよう!』という形でスタートするんですね」

「ダメ出しという名のもとで、どんどん面白くなっていって、最終的にはしっかり絵を見て自分の言葉でアウトプットします。すると、去年は作品ができなくて、ある意味問題児でしたという引き継ぎを受けていたような生徒も、すごく面白がって授業に参加してくれたりします」

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大人や社会にあらがう子どもたちの表現欲
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