ポール・スチュアートが東京・神宮前に構えていたクラシックな店を閉め、このほど青山に新たな旗艦店「ポール・スチュアート青山本店」を開いた。店づくりを監修したのは同ブランドのディレクター、鴨志田康人さんだ。テーブルや壁面を使って旬のコーディネートを次々提案する「メンズショップの原点」を目指し、来店客におしゃれの楽しみを伝えたい、と熱く語る。その鴨志田さんが青年時代、ファッションセンスを磨いたのがVANの店や雑誌「メンズクラブ」だった。服飾評論家、石津祥介さんと鴨志田さんがそれぞれのトラッドについての考え方、メンズショップのこれからなどを語り合った。(この記事の〈下〉は「タキシードにも『基本破り』 新時代のメンズアイテム」)
コーディネートの提案こそショップの役割
――帽子にスカーフ、茶のスリッポン、ニット。ブラウンやパープルでまとめた秋のコーディネートが目に留まります。大人のカジュアルはこうありたい。おしゃれさ満点ですね。
鴨志田「僕はこの店については、新しいものを作ろう、なんて一切考えませんでした。あっちこっちに新しい店ができていて、皆、感覚が麻痺(まひ)しちゃっていますからね。逆に、メンズショップってこうだよね、という原点を示した方がむしろ新鮮かな、と思ったんです」

――その売り場づくりで重視したのが、ディスプレーや接客における「コーディネートの提案」なのですね。
鴨志田「ディスプレーを示しながら、販売員がコーディネートやスタイルのあれこれをお客さまに語りかける。そんな時間を過ごしながら、おしゃれを当たり前のように楽しめる空間づくりを心がけました」
石津「そうですよ。店の売り物はね、これからますます『人』と『口』だってことになると思うよ。モノじゃなくてね」
――小売りの原点は、おすすめできる人と会話。確かにそうですね。でも、ディスプレーはこれまでにどの店も工夫を重ねてきたのではないですか。
鴨志田「もともとメンズショップはこうしたコーディネート提案をする売り場が多かったのです。ところがこの10年くらいの間に、モノの見せ方は無機質な方がかっこいい、という風潮に変わりました。それで今は単品アイテムをシンプルに置くのが流行しています」

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