「自調自考」を教育の是としていた。

「答えを考えるのではなく、まず問いを考える習慣というか、癖は武蔵時代に身についた」と振り返る

自分で調べ、考える力を養うユニークな授業ばかり。入学すると、いきなり「自由とは何か」というテーマの授業が始まった。自由には責任が伴うとか、自由について自分たちで考え、徹底的に議論し合う。もちろん1つの答えが出るわけではない。

武蔵は敷地が広く、緑の森の中にあり、小川まで流れている。中2の生物の時間、先生は3~4人でチームを作り、ここの土をどんどん掘れと指示するのです。ミミズなどいろんな生物が出てくると、それをすべて筆写しなさいと。図鑑と照らし合わせながら、生物の生態などを調べ、各人がリポートを書くわけです。それも一つの解を求めているわけではなく、なぜここにこの生物は暮らしているのかを自分で調べ、考えろということでしょう。

中3の古文の授業も印象深かった。伊勢物語を取り上げたのですが、先生は平安時代の「変体仮名」で書かれた資料を見せて、これを読めるようにしろと言うのです。本物に触れるためです。武蔵には大学の研究者レベルの教員が多かった。職員室はなく、各教員は各学科の研究室のような部屋で生徒と質疑応答をしていた。旧制高校時代からの伝統で大学と同様の研究環境をつくり出していたのです。

ちなみに歴史にはまり込む生徒もいた。1979年卒の同級生から本郷和人くんと大津透くんという2人の有名な日本史の歴史学者が出ている。ともに今は東京大学教授で、メディアによく露出している。武蔵には「民族文化部」というクラブがあり、立派な鎧なんかも飾っていた。本物の歴史の教材を保管していたわけです。

「研究オタク」が次々育っていった。同級生には歴史系では建築史の研究者で工学院大学理事長になった後藤治くんもいた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所所長の国中均くんは、小惑星探査機「はやぶさ」で時の人になった。武蔵には「太陽観測部」という天文学系クラブがあり、そこの出身部員が今はJAXAで一緒にやっているようです。医学者も多く、(睡眠覚醒を制御する神経伝達物質の)「オレキシン」を発見した(筑波大学教授の)柳沢正史くんは度々ノーベル賞候補に名前が挙がっている。

先輩ですが、大学のトップもいる。東大の五神真総長は3期先輩で、兄や現在の武蔵の杉山剛士校長の同級生になる。早稲田大学の田中愛治総長も武蔵出身。武蔵OBは医者や研究者など学術関係者は山ほどいるが、経済人や役人は比較的少ない。瀬戸は武蔵の卒業生らしくないとよく言われる。

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