プリクラが20年ぶり復活 女子高生向けに盛れる動画
「プリクラ」で一世を風靡したセガが20年ぶりに市場へ再参入する。
1995年に登場した「プリント倶楽部」を発端に、一時は1000億円以上の規模になったプリントシール機市場。今では多くの企業が撤退し、現在はフリュー(東京・渋谷)のほぼ一強状態だが、それでも200億円クラスの市場規模があると見られる。自撮りができるスマホの影響を大きく受けてはいるが、「全身撮影」「ラクガキ」「デカ目」などの様々なトレンドを取り入れながら、プリントシール機の機能は進化を継続。「マイナビティーンズ」が発表した「2019年上半期ティーンが選ぶトレンドランキング」の「モノ部門」では、フリューのプリントシール機「#アオハル」が1位に選ばれるなど、女子中高生を中心とした絶大な支持をいまだに集めている。
セガの最新プリントシール機「fiz(フィズ)」の最大の武器は、「モーメント」と呼ばれる動画撮影機能。これまでにも動画を撮れるプリントシール機はあったが、多くは一連の撮影の最後に楽しめるおまけ的要素だった。しかし、fizでは静止画のシャッター前3秒、もしくはシャッター前後3秒の動画を次々と撮影していく。「しかも顔を加工する『盛り』をキープしたまま、撮影中の自然な姿をあたかも動くプリクラのように記録する」(同社プロダクト研究開発部アートディレクターの宮中沙羅氏)という。撮影した動画はスマホで再生する仕組みだ。
他社製品の動画はパラパラ漫画のようなぎこちない動きのものが多いが、fizは「30コマ/秒」のスムーズな動きを実現。顔や肌をレタッチしつつ、テレビのような滑らかな動きに処理するには相応の技術が必要だが、そこを支えたのが「セガが持つプログラマーの層の厚さと、様々なアミューズメントコンテンツを手掛ける技術力」(宮中氏)だという。他にも大型モニターの5台同時稼働や専用ペンだけでなく指でもタッチできるラクガキ機能、スマホをシールにかざすと写真が動き出す「ARプリクラ」など最新のテクノロジーをふんだんに導入。約20年ぶりに市場参入するセガの本気度が見え隠れする印象だ。
プリントシール機にも「ジャンルナンバーワン戦略」
一度撤退した市場になぜ再参入するのか。ゲームソフト開発からアミューズメント施設まで幅広く展開するセガは、以前から「ジャンルナンバーワン戦略」を掲げている。例えばクレーンゲームの「UFOキャッチャー」のように、同社には市場をけん引してきたヒットコンテンツが数多い。そこで一定の規模を持つプリントシール機市場で再参入を通して市場の拡大を目指すべく、最新のプリントシール機を開発するミッションが同社社長の発案で生まれたという。
開発に当たっては、ネイルに貼るシールを作れる同社のプリントシール機「ネイルプリ」のプロデューサーを中心にチームを結成。延べ数百人規模の女子高生を対象にヒアリングやモニター調査を行い、新時代のプリントシール機の方向性を探った。しかし、やはり約20年のブランクは大きい。「試遊機のプレー後に『これはやばい!』と言われても、それがポジティブなのかネガティブなのか判断が難しかった」(宮中氏)というように、モニターである女子高生の話やトレンドを分析するのに苦労したという。
そこを救ったのがゲーム会社「アトラス」出身の社員だ。実は95年に一世を風靡したプリント倶楽部はセガとアトラスが共同開発したもの。今回の新型機開発を進める中で、当時アトラスでプリクラの営業や開発を長年担当していた人物が今のセガにいることが偶然判明したのだ。「さっそく新型機開発のアドバイザーに就任してもらい、モニターテストのタイミングや意見を引き出すコツなど非常に頼りになる知見を得ることができた」(同社プロダクト研究開発部プロデューサーの有川尚毅氏)。初代プリクラのDNAは、新型機にもしっかりと受け継がれているのだ。
20年7月から始まった期間限定の先行リリースの反応も上々。特にやはり「モーメント」の評価が高く、静止画の"盛り写真"を見慣れた女子高生の中には、動画を見て「自分が生きているのが分かる」という感想を漏らす人もいたという。
20年はプリント倶楽部が誕生して25周年。fizの「盛り動画」が女子高生に認知されれば、新たなプリクラの歴史が再び始まるかもしれない
(日経トレンディ 佐々木淳之)
[日経クロストレンド 2020年9月17日の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界