米国のスノッブ=英国好きだった

フィッツジェラルドの人生を振り返ってみると、「スノッブ」を抜きには語れないでしょう。作家は処女作に還(かえ)る。そんな言い方があります。第一作の「楽園のこちら側」もまた、フィッツジェラルドの「スノッブ」に満ちた一冊であります。スノッブが「上流気取り」であるのは、申すまでもありません。

フィッツジェラルドの「スノッブ」が、小説においてもっとも成功した例が、「グレート・ギャツビー」なのです。

ジェイ・ギャツビーの愛車は、小説ではロールス・ロイスであるように描かれています。どうしてロールス・ロイスなのか。20年代当時、アメリカには「デューセンバーグ」という豪華車があったにもかかわらずです。これは「英国贔屓(びいき)」ということを意味しています。

映画ではロバート・レッドフォードが主演した1作目(74年)ではギャツビーの愛車としてロールス・ロイスが登場します。13年公開の「華麗なるギャッツビー」(写真)では、レオナルド・ディカプリオ演じるギャツビーの愛車としてデューセンバーグが登場するのですが。

「グレート・ギャツビー」には、何度も繰り返して、「オールド・スポート」の言葉が出てきます。「オールド・スポート」は、ギャツビーの口癖。単なる呼びかけ。特に意味はありません。

「華麗なるギャツビー」のシーンから(c)2013 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

強いて日本語に訳すなら、「ねえ、君!」くらいのところでしょうか。この「オールド・スポート」は、古い英国の学生言葉です。たとえば「オックスフォード大学」の学生が使ったような。その「オールド・スポート」を、アメリカ人であるギャツビーが、頻繁に口にのぼらせる。これもまた典型的な「スノッブ」でありましょう。

さきほど、フィッツジェラルド自身が、ブルックス・ブラザーズの愛用者だったと、お話しました。

『華麗なるギャツビー』ブルーレイ (税別2,381円) ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント (c)2013 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

20年代までのブルックス・ブラザーズが、なぜ、アメリカ富裕層御用達だったのか。その理由はたった一つ。「英国趣味」に満ちていたからです。ごく単純に言って、少なくとも20年代までのアメリカ富裕層にとっての「スノッブ」とは、イギリスの模倣以外の何物でもなかったのです。事実、20年代までのブルックス・ブラザーズの商品には、英国直輸入が少なくありませんでした。

戦前までのアメリカ上流階級のお気に入りは「英国」だったのです。英国的であることは、すなわち「上流」であったのです。それは服装のみならず、会話にも及んでいたのです。

まあ、そんなことを思いながら「グレート・ギャツビー」を読むなり、見るなりするのは、興味を高めるひとつの方法でもあるでしょうね。

出石尚三
服飾評論家。1944年高松市生まれ。19歳の時に業界紙編集長と出会ったことをきっかけに服飾評論家の元で働き、ファッション記事を書き始める。23歳で独立。著書に「完本ブルー・ジーンズ」(新潮社)「ロレックスの秘密」(講談社)「男はなぜネクタイを結ぶのか」(新潮社)「フィリップ・マーロウのダンディズム」(集英社)などがある。

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