オンライン学習で何ができる? AIで苦手科目克服も
からすけ 新型コロナウイルスの感染を防ぐための一斉休校中もいろいろなオンライン学習を試したんだよね?
学習内容を最適化
イチ子 一斉休校期間中に公立の小中高校が児童生徒にどのようなオンライン学習をさせたのか、ちょうど文部科学省が6月末に調査した結果があるわ。
全国の教育委員会を対象に、パソコンやタブレットなどのコンピューターを使った学習の中身を聞いたところ、次のような結果になったの。(1)教育委員会などが作った動画を用いた学習に取り組んだと答えたところが26%、(2)それ以外のデジタル形式の教材を使ったと回答したところが40%、(3)先生と子どもがオンラインでつながった状態で、双方向にやり取りしながら学習したと回答したところが15%。複数回答が可能だったので、これらを組み合わせた学校もあったはずよ。
からすけ 形式を問わなければ、それなりの割合の学校がオンライン学習に取り組めたっていうことなのかな。新型コロナで突然対応を迫られた割にはよくできたね。
イチ子 多くの自治体は2020年度中に小中学生がコンピューターを1人1台ずつ使え、通信環境も整えることを目指しているけど、すでに目標を達成していた学校はすぐにオンライン学習に移行できたの。双方向型にこだわらなかったことも迅速に切り替えられた理由ね。
からすけ 実際のオンライン学習はどうやって進めたの?
イチ子 例えば京都市の立命館小学校は教室での授業をそのままオンラインで再現するのではなく、あらかじめ録画してある映像をオンラインで配信。それを家庭で学ばせたというわ。
子どもはすでに分かっている内容の動画は早送りし、分からないところは何度も繰り返せたので、学習効果は高かったそうよ。一方、双方向のやり取りは子供たちの悩みを聞いたり、励ましたりするのに役立つので、朝会で生かしたそうよ。
からすけ 昔ながらの授業をそのままオンラインで再現するんじゃなくて、デジタルならではの新しい使い方を考えた方がいいということかな?
イチ子 いい点に気づいたわね。子どもたちが最初に見る動画にしたって、先生が黒板に書いている様子を録画して作るのではなく、俳優が登場したっていいのよ。実際、NHKがネット配信している「NHK for School」のある動画では、俳優の中村獅童さんが歴史上の人物に扮(ふん)して歌って踊るの。年号と出来事を暗記するだけになりがちだった日本史の授業が楽しくなるわ。
「エドテック(EdTech)(キーワード)」という言葉、知ってる?デジタル技術の導入によって起きる教育の革新を指すの。特に学校にデジタルネットワークの環境が整うと、学習の仕方が従来とは全く変わると言われているの。
AI(人工知能)なら個々の学習者の苦手なところを解析し、その問題を解くのに必要な少し前の学習内容に戻ったり、似たような問題を出題したりできるわ。これはアダプティブラーニング(キーワード)ともいわれ、ある中学校が「キュビナ(Qubena)」というAI型ドリルを数学の教材として使ったところ、従来の半分の時間で習得できたという実験結果もあるの。
エドテック 教育(エデュケーション)とテクノロジーを組み合わせた造語。デジタル技術を活用した新しい教育そのものや、それを提供するアプリやサービスを指す。国や自治体の教育制度に頼らなくても学べるのが利点。
アダプティブラーニング 学習者一人ひとりの学習進度や習熟度に合わせてコンテンツや学習方法を提供すること。従来も習熟度別クラスなどはあったが、学習者が間違えた原因をAI(人工知能)が解析・出題する教材の登場で容易になった。
効率的な学習向上が可能に
からすけ 勉強時間を減らせるなら、その分新たな知識も増やせそうだね。
イチ子 そうなの。例えば通信制の学校であるN高等学校(角川ドワンゴ学園が運営)はオンライン上で小説、声優、ウェブデザイン、株の運用、イカ釣り体験など様々な課外授業を設けていて、はやくから職業や社会課題を意識できるようにしているの。余った時間は生徒同士が議論したり、知識をどう生かすかを考えたりするのに使うということも可能よ。
からすけ オンライン化によって、なんだか勉強が本質から変わりそうな感じだね。
イチ子 エドテックに詳しいデジタルハリウッド大学大学院の佐藤昌宏教授は先生は知識を教えるだけではなく、その知識を使った活動をサポートするような役割が求められるようになると予想しているわ。
変化が求められのは先生だけじゃないわ。子どもたちも先生に言われたことを黙って覚えるのではなく、関心のある分野の知識を自ら学ぶことが大事になるわ。デジタル技術によって勉強の本来の姿に戻るということかもしれないわね。
からすけ 僕らはわからないことをネットで調べたり、動画投稿サイト「ユーチューブ」で情報を得たりするのは得意だから、教育がもっとオンライン化される将来が楽しみだな。
鎌倉時代、学びは手紙から
東京都立桜修館中等教育学校・荒川美奈子先生の話 コンピューターがない時代の双方向の学びは手紙を使った通信教育でした。鎌倉幕府の3代将軍、源実朝は京都の文化に憧れ、歌人の藤原定家に和歌を添削してもらっていました。
定家に才能を評価され、励まされた実朝は、自身の歌を集めた「金槐和歌集」を編さん。定家はその中の一首を百人一首に採用しています。
わずか26歳で非業の死を遂げた若き将軍は、どんなに都からの返事を心待ちにしていたことでしょう。郵便すらなかったこの時代、通信教育は徒歩か馬で往復する使者に託すことで実現しました。
コロナ禍を受け、私もオンラインの授業に取り組んできました。インターネット回線が混雑して映像が途切れ、生徒がパソコンの前に座っていても授業に参加できないなどの問題が生じました。実朝の時代同様、現代の教育も優れた「通信環境」が欠かせないようですね。
[日本経済新聞夕刊2020年9月5日付]
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