新型コロナウイルスの不安が消えないなかで学術水準をどう保つのか。世界の大学が試行錯誤している。少人数の対面授業とオンライン講義を併用するハイブリッド型授業や、ネット対応の試験監督ソフトの導入――。「ニューノーマル(新常態)」で高等教育の現場も大きく変わってきた。
レントゲンやアインシュタインらノーベル賞受賞者21人を輩出したスイス連邦工科大学チューリヒ校。コロナの影響で研究スタイルが変わった。
1時間ごと換気
「2人以上が在室する場合は原則1時間ごとに5~10分の換気」「扉の取っ手や照明スイッチなどは1日3回消毒」。マニュアル集には、研究室での感染防止策が細かく記されている。
同大は3月に校舎を閉鎖したが、感染が小康状態になった4月下旬に規制を緩めた。研究室の使用を認めたのも実験などが必要な分野が多いからだが、警戒は怠らない。

世界ランキングでアジア首位争いの常連であるシンガポール国立大学も感染防止に余念がない。敷地を5つのブロックに分け、学生やスタッフにブロックをまたいで移動しないように促す。感染者が出ても学内でのウイルス拡散を防ぐためだ。
感染に歯止めがかからない米国でも、ウイルス対策は必須となる。カリフォルニア工科大学は独自のアプリでキャンパスに立ち入る人の健康状態と移動経路を把握する。マサチューセッツ工科大学(MIT)は学生のルームシェアを休止した。
世界中から集まる学生と交流しながら自由な学生生活を送る――。そんなキャンパスライフも激変した。もはやコロナ前のような対面式を軸にしたカリキュラムは非現実的となり、少人数の対面授業とオンライン講義を併用する「ハイブリッド型」にシフトする大学が増えている。
英ケンブリッジ大学もそのひとつだ。10月からの新学年では学生の個別指導や、少人数でのディスカッションは校舎で行う。「現場で教育を受ける機会を与えたい」とビーゴ副学長代理は語る。
「密」を避けるため、400人収容の大講堂をあえて少人数ミーティングに活用する。学内でソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を保てるように配慮するという。