
高校生について非常に気になる調査結果がある。2019年11月に日本財団が発表した「18歳意識調査」。米英や中韓など9カ国の17~19歳に、社会や国に対する意識を聞いたところ、日本は「将来の夢を持っている」「自分で国や社会を変えられると思う」など多くの項目の数字が最下位だった。「日本の高校生ってそんなに夢が持てないの」「学校のかたちが時代に合わなくなっているのかも」。そんな疑問から、学校のあり方や周囲の環境を、彼らがどう受け止め、対応しているのか取材した。日本の高校生が向かう先を考える。
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登校して授業を聞く。そんな学校の基本スタイルを揺さぶり始めている高校がある。N高等学校。角川ドワンゴ学園(沖縄県うるま市)が16年に設立した通信制高校で、N高は「ネット高校」と説明する。卒業に必要な授業はネット配信で受けられる。国内外どこでも受講できるため、フィギュアスケートの紀平梨花選手らが在籍することでも知られる。右肩上がりの学生数は現在、1万2千人だ。
高校の課程に入らない「課外授業」もある。プログラミングやウェブデザイン、大学受験対策などもネット配信の動画で学べる。N高生ならすべて無料。「投資部」などユニークな部活動もある。全国各地のキャンパスで学びの機会を広げる「通学コース」も設置。学生寮も置いている。
20年春は東京大学合格者が出るなど進学実績も伸びているが、在学経験者はN高のもっと別の顔を語る。他の学校に通えなかった、あるいは他の学校ではできないことがあった生徒が「ここならいられると思った」「自分のやりたいことができた」と話すのだ。
中学までの優等生が不登校に

慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の環境情報学部に通う鈴木颯人(すずき・はやと)さんは、高校2年の4月からN高に通った。きっかけは不登校だ。
中学までの鈴木さんは成績もよく、クラスの中心にいるような生徒だったという。卓球では県大会の団体戦で準優勝も経験していた。ところが、県でもトップクラスの公立高校に入って状況が変わった。周囲は自分と同じような成績の生徒ばかり。競争に勝たなければと思ったが、体が動かず、数カ月で学校に行かなくなった。「生きる目標も見失って、自分の部屋でカーテンを閉めてぼーっとしていた。正直なところ当時の記憶がほとんどありません」
環境を変えるべきだと、両親はすぐに動いた。高2からN高の通学コースに転入。「ひととのコミュニケーションの機会を失ってほしくないと両親が考え、通学コースをすすめられた」という。
N高では「自分がすごくふつうに思えた」。オタクっぽい人も、テンションが高い人もいる。「自分も頑張ればできる」という気持ちを自然に取り戻せた。それまで考えられなかった大学進学も、プログラミングが得意な友人やチューター、SFCの大学生との出会いを通じて視野に。合格を果たし、今は学校に通いながらネットサービスのスタートアップでインターンとして働いている。