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では、個々の食品について。
最近のトピックで、日本人なら誰しも気になることがある。
白米についてだ。
「白米は『精製された穀物』のひとつで、単純炭水化物に分類されます。他の穀物と比べて血糖値を上げやすいので、あんまり体によくないなという印象はあります。私自身の研究も含めて他の多くの研究でも、炭水化物の摂取は控えめにしたほうがよいという結果が出ていますし、実際に白米を摂取している人の方が糖尿病のリスクが高そうだというような研究も出ています(※1)」
これだけ聞くと、やはりお米を食べるのが怖くなる人がいても不思議ではない。日本人にとってあまりに基本的な食材だから、それが健康に悪いといわれるとうろたえるばかりだ。
「ただ、前にも強調しましたが、食品の影響って長い時代背景にある文化も含めた食事パターンの中で考えるべきなので、日本での研究はどうかといいますと、国立がん研究センターの多目的コホートが参考になります。この研究では、お米を食べている人はむしろ死亡率が低かったりするんですね。これを見ると、日本でお米を食べることというのが、必ずしも悪いとは言えません」
日本での米の摂取頻度と糖尿病リスクと死亡率の研究は、別々の論文として発表されている(※2)(※3)。どちらかしか知らないでいると、「お米は怖い」「お米はよい」と正反対の結論を導きかねない。一つの論文だけに食いついてはいけないというよい例だ。解釈に慎重さを要するわけだが、今村さんはこの一連の件について今年「週刊医学界新聞」に「お米にまつわる疫学の一端」と題して寄稿した。やや専門家向けではあるが、医学書院のウェブサイトでも公開されているので一読をおすすめしたい。
まとめるとこんなふうだろうか。
疫学的には、日本でバランスに気をつけて食事をしている限り、また糖尿病のハイリスク群ではない限り、お米の食事を忌避する理由は今のところ薄そうだ。公衆衛生政策としても、糖尿病を減らすために死亡率が上がったのではおかしな話になるので、データがもっと揃うまでは様子見ということになるのだろう。
https://doi.org/10.1136/bmj.e1454
(※2)Eshak ES, Iso H, Yamagishi K, et al. Rice consumption is not associated with risk of ardiovascular disease morbidity or mortality in Japanese men and women: a large population-based, prospective cohort study. Am J Clin Nutr. 2014;100(1):199-207.
https://doi.org/10.3945/ajcn.113.079038
(※3)Nanri A, Mizoue T, Noda M, et al. Rice intake and type 2 diabetes in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Am J Clin Nutr. 2010;92(6):1468-1477.
https://doi.org/10.3945/ajcn.2010.29512