フィットはなぜ太陽戦略に目覚めたのか

小沢 しかし、よくそんな太陽戦略に目覚めましたね。イソップ童話の『北風と太陽』の話でいうと完璧に太陽側の論理です(笑)。

田中 最初のコンセプトの段階で「本当に人の役に立つものを作ろう」ってとこに立ち返ったのが大きいですね。

小沢 ホンダ全体のコンセプトですか。それとも田中さんの個人的な思い?

田中 今回のフィットの考え方ではあるんですけど、一方で本田宗一郎以来のホンダの原点でもあります。ホンダってスーパーカブみたいなシンプルだけど高機能なものを人のためにつくる。格好や機能だけじゃない、本当に人の役に立つものをつくる。そこが原点だと思うんですよね。

小沢 そういえばシフトレバーもそうでした。3代目でプリウス同様の完全電子シフトにしたのに、4代目でメカ式の直線シフトに戻している。

田中 先進感がなくなっちゃったじゃないの、って言われることもあるんですけど、先進感よりも人が操作を間違えない方が重要だろうと。

小沢 あれ、プリウス開発者に聞いたんですが、電子シフトにするとバックからドライブに自動で切り替えることができるんですってね。

田中 もちろん自動パーキング時のメリットはありますが、お客さんによくよく聞くと「間違えちゃう」とか「覚えにくい」という声があるんですよ。あとこのクラスのクルマだとレンタカーとして借りることも多いのですが、このシフトレバーならパッと借りてパッと乗れる。

小沢 でもこの時代、それはツラくないですか。先進感を出したほうが偉い、アナログだと古く見えちゃうって時代に。テスラ人気なんてその典型ですよ。

田中 その一方でクルマに限らず、世の中ちょっとデジタルに行き過ぎているのをちょっと戻そう、人間らしさを取り戻そう、みたいな動きもあると思うんですよね。テクノロジー至上主義から人間主義への回帰。デジタルデトックスみたいな言葉も出てきていますし。

小沢 そうか。最新の電動&デジタル技術の固まりのようなフィットだけど、中身は結構「人間よ、自然に帰れ」の方向なんですね。

田中 そう受け取っていただいてもいいと思います。

田中健樹氏(右) 新型フィットの商品開発責任者。1993年に本田技術研究所に入社。初代インサイトのアルミテールゲート設計や新型プラットフォームの先行開発などを担当。3代目フィットでは商品開発責任者代行を務めた。趣味はオートバイのレースやツーリング
小沢コージ
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」など。主な著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。

(編集協力 出雲井亨)

MONO TRENDY連載記事一覧