「カクテルのプロ」が普及を後押し

バーテンダーというプロからの支持を得たことが追い風となり、近ごろは自宅用に買い求める個人消費者が増えてきた。手軽にカクテルを作れるのに加え、ワインやウイスキー、日本酒、焼酎などの味わいをまろやかに変える効果も売り物の一つ。「全国の名だたるバーを回って、バーテンダーの意見を取り入れながら、開発を進めたことが商品のクオリティーを高めた」(横山氏)。自動車部品という全くの畑違いから立ち上げたビジネスがわずか6年間で軌道に乗った背景には、バーテンダーたちとの関係を深める、地道なバー回りがあった。

「バーディ」の商品ラインアップはバー用品を幅広くカバーしている

今ではカクテルもワインも好んで飲む横山氏だが、もともとは日本酒好きだった。だから、最初は日本酒用のタンブラーを企画した。試作品を持って、日本酒のプロに意見を求めたが、結果かんばしいものではなく、最初のトライはつまずいた。その後、「磨き」のメリットを研究するなか、カクテルツールとしての生かし方を見付け、約10カ月の試作を重ねて、製品化に至った。横山氏は自らもバーテンダー協会に賛助会員として加わり、バーテンダーとのつながりを広げていった。「プロの意見をじかに聞くのが『使い手ファースト』の商品に仕上げる近道。結果的にバーテンダーから認められ、ブランド価値が高まった」

とりわけ大きかったのは、アメリカンバーの10代目ヘッドバーテンダーを務めたエリック・ロリンツ氏との出会いだ。経済産業省が中小企業を支援するプロジェクトの後押しを受けて、ドイツで開催された展示会に14年から出展し、ロリンツ氏の知遇を得た。以後は商品開発のパートナーに迎え、横山氏の知恵袋になってもらった。現在ではカクテルツールの商標も「BIRDY. by Erik Lorincz(バーディ バイ エリック・ロリンツ)」となっている。主にメッセージアプリで意見を交わし合うロリンツ氏の存在を「世界に向かってドアが開いたのは、エリックのおかげ」と認める。世界的コンクールの優勝者でもあるロリンツ氏はグローバルな知見も「バーディ」にもたらしてくれたようだ。

創業者の祖父は「三河のエジソン」と呼ばれたアイデアマンだったそうだ。横山氏の父である2代目も新規事業に取り組んだ。現在の社長である、横山氏の兄も新規事業を後押しした。「基本的に新しいもの好きの家系。DNAは私にも受け継がれている」と、横山氏は異端のスピンアウトが必ずしも一族の系譜では例外にあたらないとみる。だが、「業態転換はしない」と決めて、新規事業の構想を練ったという。「『ものづくりからものづくりへ』というベクトルは保ちたかった。デジタルに走らず、アナログを突き詰めるという逆張りは、自分たちの強みや持ち味を際立たせるうえで、プラスに働いた」。新規事業であっても、「自分たちの歴史から離れない」という、製造業一家のプライドと覚悟が町工場を「バーツールの革命者」に導いた。

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