「日陰の技術」を掘り起こし

行き詰まった検討チームが試みたのは、「技術の因数分解」だった。「持ち前の金属加工技術をたなおろしして、個別の要素に切り分けた。曲げる、穴開け、削る、溶接するなど、いくつもの作業に分けて、それぞれの競争力や発展性などを掘り下げた」。議論が百出したが、最後に残ったのは「磨く」だった。溶接やプレスといった作業の陰に隠れた、脇役の技術だ。

「自動車部品製造の仕事では割合でいえば、0.1%の技術。パーツの研磨は、加工時の金属ストレスを減らすうえで重要だけれど、工場内では割と目立たない仕事。でも、そこに競争力があった」

「バーディ」のシェーカーは「磨き」が売り物だ。手で握るステンレスの外面を磨くのではない。カクテル材料と氷を入れる内側を磨くのだ。微妙な凹凸を残した研磨がカクテルをまろやかにし、素材の味を引き立てる。横山氏を中心とする検討チームが見付けた磨きの技術は、この内面加工に生かされている。

手仕事の磨き作業が内側の面に複雑な凹凸を生む

工場内の大半を占める溶接やプレスの工程では、機械が主役だ。しかし、「バーディ」の生産ではほとんどを手仕事が占める。「手にしか出せない精度がある」と、横山氏はいう。実際に作業工程を見せてもらうと、熟練した技術者が確かに手仕事でシェーカーを磨いていた。手に持った研磨グラインダーの先には、歯の治療に使うような研磨パーツが取り付けられている。何種類もの研磨パーツを使い分けることによって、繊細な凹凸が生まれるという。

金型を磨く技術をスピンオフさせた格好だが、横山氏が「勝因」とみる絞り込みは、単なる技術の切り出しにとどまらない。シェーカーの場合、デザインや成形など、複数の作業が必要になるが、横山興業ではグランドデザインを除けば、実質的に磨きの工程しか引き受けていないのだ。本体の成型は新潟県の企業に外注し、デザイナーも社外。「内側を磨くというコアな工程だけに集中することによって、付加価値を高めている。手仕事はまねされにくいので、競争力を保つ意味でも内製加工が望ましい」。この徹底した割り切りがもう一つの勝因となった。

競争力やオリジナリティーにつながらない要素を、丁寧にそぎ落としてきた。ブランド名の「バーディ」はゴルフで「1打少ない」という意味。打数がマイナスになるほど価値が高まるゴルフの考え方と、研磨技術やシンプル志向を重ね合わせたネーミングだ。水準を意味する「パー」よりも1段階優れたものをつくるというブランド哲学も表している。「無駄な要素を削り込むという発想は、商品開発やマーケティングでも結果につながった」と、横山氏はいう。一見、市場規模が小さそうに思える「バー」というマーケットに絞り込んだ戦略にもブランド哲学がうかがえる。

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