完全無線イヤホンNoble対オーテク 1万円台でも高音質
「年の差30」最新AV探訪
すっかり定着した完全ワイヤレスイヤホン。2019年は大手メーカーの新機種発表や新興ブランドの台頭が目立ったが、2020年は1月に開催された「CES 2020」でShureが「AONIC 215」を発表するなど、ハイクラスのオーディオメーカーも参入する動きを見せている。その先駆けとなったのが、Noble Audioの「FALCON」だ。オーディオテクニカの新作完全ワイヤレスイヤホンとあわせて、平成生まれのライターと昭和世代のオーディオ・ビジュアル評論家が聴き比べた。
2万円でおつりが来る同士の対決
小沼(28歳のライター) 今回聞き比べるのはNoble Audioの「FALCON」と、オーディオテクニカの「ATH-CK3TW」です。Noble Audioは小原さんが2019年の完全ワイヤレスイヤホンのベストとして挙げていましたよね(記事「2019AV家電 驚きの8K有機EL、オーディオは2極化」参照)。
小原(55歳のオーディオ・ビジュアル評論家) そうですね。Noble Audioは10万円以上のイヤホンを主に作っているメーカーですし、初の完全ワイヤレスイヤホン、しかも2万円以下というのはかなりインパクトがありました。
小沼 対するはオーディオテクニカ「ATH-CK3TW」。オーディオテクニカはこれまでに何機種も完全ワイヤレスイヤホンを発表していますね。この連載でも以前「ATH-CKR7TW」を取り上げたことがあります(記事「老舗の完全無線イヤホン対決 ゼンハイザー対オーテク」参照)。
小原 開発を重ねているだけあって、オーディオテクニカの完全ワイヤレスイヤホンはかなりクオリティーの高いものになっていると思います。
小沼 価格はそれぞれ、FALCONが1万9800円、ATH-CK3TWが1万3860円(ともに税込み、1月下旬、ヨドバシドットコムで確認)。2万円でおつりが来るイヤホン対決ですね。
ハイエンドブランド初の完全無線
小沼 まずはFALCONから見てみましょう。その前に、Noble Audioとはどんなブランドなんですか?
小原 米国でジョン・モールトン博士という人が創設したブランドです。彼はオーディオロジスト(聴覚学者・聴覚専門医)として知られていて、もともとは補聴器会社に勤めていた人。イヤホンは当初趣味で作っていたのですが、周囲の人がそのクオリティーを高く評価し、ブランドがスタートしました。
小沼 補聴器会社で、趣味でイヤホンを作っていて……と聞くと、「FitEar(フィットイヤー)」の須山慶太社長を思い出しますね(記事「高音質で耳にも優しい オーダーメードイヤホンを作る」参照)。Noble Audioの特徴は?
小原 音を再生する部品である「バランスドアーマチュア」(BA)をたくさん組み合わせて音を作るのが特徴です。現在のフラッグシップモデルの「KHAN」というイヤホンでは異なる3種のBAを使用していますし、「KATANA」というイヤホンではBAを片側に9個搭載することで、高い分解能を実現しています。
小沼 KHANやKATANAは有線のイヤホンで、価格としてはどちらも20万円以上。それと比べると、完全ワイヤレスイヤホンで2万円以下のFALCONの異色さが際立ちますね。
小原 ブランド自体を周知させる目的もあるのでしょうね。最初は「あのNoble Audioが2万円以下って、大丈夫なの?」と思ったのですが、とてもよくできていると思います。遅れてきたダークホースですね。
音質、性能ともに申し分なし
小沼 小原さんが思うFALCONの魅力を改めて教えてください。
小原 まず、音のバランスがとても整っています。ワイドレンジかつフラットで、余計な味付けのない素直な音なのですが、それでいて物足りなさも感じない。クラシックやジャズ、ビート系など、どんな音楽を聴いても楽しめました。
小沼 たしかに、音源に忠実に鳴らしている印象があります。僕は今、この連載でも取り上げたAVIOTの「TE-D01b」を主に使っているのですが、これはJ-POPを多く聴く人向けに味付けがされたイヤホン。FALCONを聴くと自然な音の良さが感じられて、思わず心変わりしそうになりました……。
小原 FALCONは音の立体感も優れています。カナル型のイヤホンは鼓膜との距離が短くなるため、奥行きが表現しにくいんですよ。でも、FALCONはクラシックを聴いたときのホールの残響感や、手前から順に弦楽器、管楽器、ティンパニ、チューバといった空間構成まで感じられます。この描写力は出色です。
小沼 これまで聞こえなかった音が聞こえることも多々あったのですが、これも描写力の高さゆえですか?
小原 そうですね。聞こえなかった音が聞こえるのは、つまり鳴っていたけど気付かなかった音に気付くということ。それはイヤホンのダイナミックレンジが広く、分解能が高く、音色の描き分けができているからこそです。
小沼 音質以外のスペックも高いです。デザインが洗練されていてケースも小さいですし、IPX7の防水性能を搭載。ペアリングは安定しており再生時間も長く、イヤホン単体で10時間、ケース併用で40時間です。小原さんが昨年のベストに選ぶのも納得のクオリティーですね。
小原 ちなみに、FALCONは紛失時のサポートも充実しているんですよ。イヤホン本体のどちらか、あるいはケースを紛失したとき、8800円(税込み)で新品と交換してくれるんです。
小沼 おお、そんなサービスが! 完全無線イヤホンの紛失はJRが注意喚起をするほど問題になっていますし、こうしたサポートは心強いですね。
ATH-CK3TWも機能充実
小沼 続いて、オーディオテクニカを見てみましょう。ATH-CK3TWは完全ワイヤレスのエントリーモデルとして、機能を充実させつつも価格を抑えたモデルです。
小原 これもすごく良いイヤホンです。過去のオーディオテクニカの完全無線と比較するとあか抜けているし、音のバランスが整っていて、自然にしっかり聴かせてくれます。音質ではFALCONと甲乙付けがたいですね。
小沼 僕は自然なメリハリのある音だと感じました。低域がしっかりしているけど高音もしっかりと伸びるので、J-Pop、ロック、EDM、どれも心地よく聞くことができましたね。音質以外だといかがですか?
小原 うーん、デザインを見るとFALCONのほうが洗練されているかな……。
小沼 ATH-CK3TWはケースが立方体に近いかたちで、洗練というよりはかわいいイメージですよね。カラーバリエーションも4種と豊富ですし。本体のサイズは小さいですが、レッドやブルーは色味がビビッドなので、ファッションのアクセントとしてさりげなく取り入れられると思います。
小原 再生時間などのスペックはどうなんでしょう?
小沼 再生時間はイヤホン単体で6時間、ケース併用で30時間。防水はIPX2と生活防水程度です。FALCONと比べると劣りますが、ATH-CK3TWも普通に使用するぶんにはまったく問題ない性能だといえます。
小原 なるほど。東京から博多まで新幹線で5時間程度ですから、6時間連続再生ができればたしかに十分ですね。
小沼 都内でいろいろ使ってみましたが、ペアリングも安定していたと感じました。
完全無線イヤホンは数年で使い捨てか
小沼 今回の対決だと、やはり小原さんはFALCONでしょうか。
小原 そうですね。ただATH-CK3TWが劣っているということではありません。デザインの好みなどでATH-CK3TWを選んでも損はしないと思います。
小沼 僕も個人的にはFALCON派です。ただ、オーディオテクニカはネームバリューもありますし、カラーバリエーションも豊富。10~20代前半で、ちょっといい完全無線を探しているという人にはATH-CK3TWの方が受ける気がします。
小原 価格もテクニカのほうが数千円安いですしね。とはいえ、どちらも1万円台なので手に取りやすいと思います。最近、あるオーディオメーカーの人と話したのですが、完全無線イヤホンは今のところ長く愛着を持って使うのが難しいそうです。バッテリーが消耗したり、あるパーツが故障したりしたときに、修理してずっと使うということが考えられていないんです。
小沼 ある意味、数年で使い捨てということですか。
小原 そうとも言えます。スピーカーやヘッドホンだと、数十万円出して長く使うこともできますが、完全無線ではなかなか難しい。この点は考慮すべきだと思います。
小沼 そう考えると、あまり高い完全無線イヤホンを買うのはちゅうちょしてしまいますね。製品を選ぶとき、「数年で使えなくなるかもしれないぞ」と一度立ち止まって考えてみてもいいのかもしれません。
小原 紛失の可能性も有線に比べると高いですからね。その意味でも、サポートをしっかり確認するといいですよ。FALCONのような交換サービスがあれば安心ですし、修理サービスをはじめるメーカーも登場するかもしれませんから。今後に期待ですね。
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Noble AudioのFALCONとオーディオテクニカのATH-CK3TWの2機種を比較した今回の対決。2人が選んだのはFALCONだったが、ATH-CK3TWも音質が良く機能も充実しており、どちらを選んでも後悔しない製品だといえる。
完全無線イヤホンの寿命についても話題に上がった。バッテリー交換や修理といったサービスが難しい完全無線イヤホンは、有線の高級イヤホン・ヘッドホンのように愛着を持って使うことが難しい。ただ、そのぶん1万円台の製品でも十分なクオリティーの製品があるのが完全無線イヤホンの世界でもある。こうした点を踏まえ、さまざまな製品を試してみるのも面白いだろう。
1964年生まれのオーディオ・ビジュアル評論家。自宅の30畳の視聴室に200インチのスクリーンを設置する一方で、6000枚以上のレコードを所持、アナログオーディオ再生にもこだわる。今回の試聴で使ったアルバムはアンネ=ゾフィー・ムター/ジョン・ウィリアムズ「アクロス・ザ・スターズ」など。
小沼理
1992年生まれのライター・編集者。最近はSpotifyのプレイリストで新しい音楽を探し、Apple Musicで気に入ったアーティストを聴く二刀流。今回の試聴で使ったアルバムは「エアにに」(長谷川白紙)など。
(文 小沼理=かみゆ、写真 ヒロタコウキ=スタジオキャスパー)
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