2019AV家電 驚きの8K有機EL、オーディオは2極化
「年の差30」最新AV機器探訪
2019年も残すところあとわずか。今年もさまざまなAV機器が登場したが、専門家の目にはどのように映ったのか。平成生まれのライターがオーディオ・ビジュアル評論家に話を聞くと、2019年の動向と2020年の展望が見えてきた。
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小沼理(27歳のライター) 2019年ももうすぐ終わりです。ぜひ小原さんが注目したAV製品を教えてください。
小原由夫(55歳のオーディオ・ビジュアル評論家) テレビを中心としたAV製品に関していえば、そもそも注目すべき新製品が少ない1年でした。テレビは例年通りにニューモデルが登場し見どころも多かったのですが(記事「華やかさます有機ELテレビ 画面明るく個性を競う」参照)、UltraHD対応のUHDブルーレイプレーヤーやAVアンプの分野ではほとんど新製品が出ませんでした。UHDブルーレイプレーヤーでは、18年末にパイオニアが「UDP-LX800」を発表しましたが、19年はエントリーモデル以外は目立った動きがありません。AVアンプは春にデノンやオンキヨー&パイオニアが新製品を発表しましたが、以降は国内では目立った動きがありませんでした。
小沼 全体的にみて、不作の1年だったということですか。
小原 そう言わざるを得ないですね。ただ、AVのV、つまりビジュアルの方には明るい話題もあります。1つは有機ELテレビが本格的に普及し始めたということです。
小沼 GfKジャパンの「2019年上半期(1~6月) 家電・IT市場動向」によると、4K有機ELテレビの販売台数は前年同期の2倍強になりました。世間の高画質有機ELテレビへの関心は高そうですね。
小原 中でも強く印象に残っているのが、LGが9月に発売した世界初の8K有機ELテレビ「OLED 88Z9PJA」です。
8K有機ELテレビはホームシアターを変えるか
小沼 8Kテレビはこれまで家庭用では液晶しかありませんでしたが、ついに有機ELでも登場したということですね(8Kテレビに関しては記事「画質進化の最終形 年末開始の8K放送どう楽しむ」、有機ELテレビについては記事「有機ELは液晶と何が違う? TVの進化と未来を探る」参照)。
小原 サイズは88インチ、価格は約360万円なので、普及にはまだ時間がかかるでしょうけど(笑)。
小沼 大きさも価格もかなりのものですね。クオリティーはどうなのでしょう?
小原 すばらしいですよ。有機ELは液晶テレビのようにバックライトをパネルに当てるのではなくそれ自体が光る素子を使っているので、88インチの細部まできれいで色鮮やか。これと比べると100インチクラスのプロジェクターはかすんでしまいます。もちろん導入コストなどではまだプロジェクターが優位ですが、ホームシアターの世界は大きく変わっていくかもしれない、そう感じさせる製品でした。
小沼 この流れは他社も追随するのでしょうか。
小沼 東芝やソニーは8K有機ELテレビの開発をすでに発表しています。パナソニックはまだ発表していませんが、今年液晶パネルの生産から撤退することを発表しました。来年以降、どのメーカーも軸足が有機ELに移っていくことが予想できます。
小沼 2020年の夏には東京五輪も控えています。メーカー各社もこのイベントに向けてかなり力を入れていくでしょうし、来年は8K有機ELテレビが盛り上がっていきそうですね。
オーディオもサウンドバーで楽しむ
小沼 でも、8K有機ELが登場してVの面では堅調なのに、A(オーディオ)は苦しいんですね。これはなぜでしょう?
小原 それなりの音質が手軽に楽しめるようになったということはあるかもしれません。以前は、大型テレビにAVアンプと5.1ch用のスピーカーをつなげてコンテンツを楽しんでいた人からも「最近は10万円以下のサウンドバーで十分と考えるようになった」という話はよく聞きます。
小沼 サウンドバーは、テレビの手前に置くだけで疑似的なサラウンドを楽しめる製品のことですね。たしかに本格的な5.1chを楽しもうとするとスピーカーの数も増えるし、それらをつなぐケーブルが邪魔になるという声は聞いたことがあります。
小原 その点、サウンドバーは手軽ですからね。家に必ずステレオやミニコンポがあったような時代とは違い、最近は音楽を聴くときも、テレビ用サウンドバーで再生するのが一番いい音で楽しめるという家庭も増えているみたいですし。
小沼 サウンドバーであればBluetoothで接続してスマホから音楽も流せますからね。ワイヤレスだから面倒なケーブルも必要ないし、近年はやっているミニマルなライフスタイルには合っていそうです。
小原 家族構成が変わり、モノを持たない時代に合わせて、オーディオのあり方も変わってきていますね。ただ一方で、音やハードウエアにこだわる人は以前にも増してこだわるようになっているとも感じています。最近、オーディオ関係のイベントを見てみると、1000万円や2000万円のオーディオ機器が珍しくなくなっているんですよ。
オーディオシステムが「億」超え
小沼 2000万円って高級外車やマンションみたいな価格ですね。どんな人が買うんですか?
小原 日本でも買う人はいますが、増えているのはアラブやドバイ、中国の富裕層。彼らをターゲットにすることで価格が大きく上がっているようですね。最近一番印象に残っているのは、11月に開催された「2019東京インターナショナルオーディオショウ」で見たTechDAS(テクダス)の「Air Force Zero」というレコードプレーヤー。重量350キログラム、予定価格は4500万円以上だそうです。
小沼 レコードプレーヤーって、つまりアナログレコードを再生するプレーヤーってことですか。それが4500万円って、すさまじいですね。
小原 しかもこれはプレーヤー単体の値段なので、この製品に見合ったアームやカートリッジを入れれば5000万円オーバー、アンプやスピーカーも含めれば1億円を超えるでしょう。昔から本格的なオーディオシステムには高額なものも多かったですが、それでもこの金額には驚きました。
小沼 専門家の小原さんでも驚くほどですか。手軽に音楽を楽しみたい人と、徹底的にお金をかけても音質を追求したい人。昔からそれぞれいたのだとは思うのですが、その差が広がっているのかもしれませんね。
Amazonがハイレゾ音源配信を開始
小原 ちなみに、インターナショナルオーディオショウのTechDASブースの一角ではCDプレーヤーが用意されておらず、CDを持ってきた人が希望したシステムで試聴できないということがあったそうです。
小沼 アナログレコードが再生できるのにCDが再生できないのは面白いなあ。そういう時代なんですね。実際、個人的にもCDは本当に買わなくなりました。
小原 その一方で、9月にAmazonが「Amazon Music HD」という、ハイレゾ音源のストリーミング配信を開始しました。日本では「TIDAL」など海外のハイレゾストリーミングサービスが利用できずマニアは困っていたのですが、そんな中で日本でも多くの人が利用しているAmazonが、何の前触れもなくこのサービスを開始したことには驚きました。
小沼 配信楽曲は6500万曲以上で、iPhoneだと5s以降であれば対応しているんですね。
小原 ハイレゾ対応はそのうち数百万曲のようですが、これでハイレゾがぐっと身近になりそうです。ハイレゾを聴くためのオーディオ機器も2020年は盛り上がるんじゃないかな。
小沼 たしかに、これを機会にハードを見直そうという人も出てくるかもしれませんね。そもそも完全無線イヤホンなどだとハイレゾに対応していないものも多いですし。
小原 その完全無線イヤホンは、今年元気だった分野ですね。
高級ブランドが完全無線イヤホンに参戦か
小沼 完全無線イヤホンは、この連載でも数々の製品を取り上げました。
小原 完全に定着したといえるでしょう。1年前はまだ様子見しているメーカーもありましたが、今はどこも無視できないほど存在感を増しています。メーカーに聞いていても、売り上げの中で大きなパーセンテージを占めるようになっているようです。
小沼 GfKジャパンの「2019年上半期 家電・IT市場動向」によると、完全無線イヤホンの販売本数は前年の2倍強に。下半期のデータはまだ出ていませんが、今後も成長が見込まれます。
小原 今はまだ言えないのですが、今後はハイエンドのイヤホン・ヘッドホンメーカーも完全無線イヤホンに参入してきます。2020年はハイクラスの完全無線イヤホン登場に拍車がかかるでしょうね。
小沼 記事「1万円台の完全無線イヤホン 新興ブランドも音侮れず」で取り上げたような手ごろな価格の製品も増えていますし、手軽な製品と、高価だけど性能に優れた製品の2極化が進みそうですね。ちなみに2019年に発売された完全無線イヤホンの中で、小原さんのベストは?
小原 Noble Audio初の完全無線イヤホン「FALCON」ですね。Noble Audioといえば基本的に10万円以上のイヤホンばかりを作っているブランド。それが2万円以下の価格で完全無線イヤホンを発表したのですから、かなり戦略的に仕掛けてきていると思います。
小沼 「FALCON」はこの連載でも取り上げる予定ですが、サイズも小さいし、格好良いですね。
小原 音もすごく良いし、今の僕のお気に入りです。高級ブランドが完全無線イヤホンに参入してくる先駆けのような動きだとみています。2020年は、「このブランドも!」と驚くようなところからも完全無線イヤホンが登場すると思いますよ。
1964年生まれのオーディオ・ビジュアル評論家。自宅の30畳の視聴室に200インチのスクリーンを設置する一方で、6000枚以上のレコードを所持、アナログオーディオ再生にもこだわる。2020年に買いたいAV機器は「ずっと狙っている今は言えない国産MCカートリッジ」。
小沼理
1992年生まれのライター・編集者。最近はSpotifyのプレイリストで新しい音楽を探し、Apple Musicで気に入ったアーティストを聴く二刀流。2020年に買いたいAV機器は「ハイレゾ対応イヤホン」。
(文 小沼理)
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