「評価と人格の切り離しが大切」

工藤紀子氏

多様なメンバー構成のチームが当たり前になるなか異なる他者を認め合ううえで、自己肯定感はプラスに働きやすい。「自分を等身大で認められれば、同じように他者も尊重できる。チームでパフォーマンスを高めていくにあたって、適切な自己肯定感はチームの潜在力を引き出す効果が見込める」(工藤氏)。ありのままの自分を受け入れることは、長所の発見にもつながる。他者との比較にとらわれていると、欠点・短所と思い込みがちな資質も、自分の全体を認める気持ちで見渡せば他者にはない強みや特質と気づくことができる。「自分の才能を自ら発見し、育んでいくうえで、自己肯定感は必須」と工藤氏はいう。

社内での出世には競争が伴うが、ライバルと自分を見比べて欠点をあら探しする態度は「成長を邪魔しかねない」と工藤氏は懸念する。かつては減点法で昇進・昇格を判断するきらいもあったが、近ごろは長所を比較する加点方式の人事評価も広がりつつある。欠点の少ない優等生タイプよりも、イノベーションを起こせる起業家タイプのほうが結果的に成長や収益に貢献してくれるという、リーダー評価軸の変化が背景にある。「ライバルに負けないよう、欠点を補うような自己否定は必要なくなってきた」(工藤氏)。むしろ、長所を伸ばしていくためにも自己肯定感が求められている。

しかし現実には昇進・昇格のタイミングが遅れたり、人事考課が不満足だったりといった出来事をきっかけに、自己否定に走ってしまう人が珍しくない。上司からの小言や、会議での失敗なども、「自分は能力が足りない」という落ち込みに誘う。そうしたネガティブ結果が引き起こす自己否定を防ぐには、「評価と人格の切り離しが大切」と工藤氏は説く。望ましい評価を受けなかったのは提出物や交渉プロセスであり、当事者本人の人格ではない。だが責任感の強い人ほどこの切り分けがあいまいになりがちで、「自分はダメだ」と評価と人格をごちゃ混ぜにしがちだ。

反省を怠り無責任を許す態度はNG

「評価」と「人格」を切り離すにあたって気をつけたいのは、反省を怠り無責任を許す態度だ。望んだ結果が出なかった事実はきちんと受け止めつつ、そこに自分の全人格を投影しない。自分にはまだ成長余地があると希望的に考えて、失敗を次の成長に生かすという気持ちの切り替えができれば、必要以上にモチベーションが下がることはない。

一方、評価と自己肯定感を関連付けてしまうと、奇妙な「パブロフの犬」的な現象も引き起こしかねない。プラスの評価が自信や達成感を呼び覚ますような習慣づけに浸ってしまった結果、常に満足が得られず、評価を獲得してもすぐ次の評価を求めてしまうようになる。ついには、評価の得やすい目標を選ぶようになり、本来の望ましい目標よりも、目先の評価目当てに血道を上げる態度に走っていく。「評価は確かに気持ちを盛り上げてくれるが、自己肯定感と安直にひもづけるのは危険な行為」と工藤氏は注意を促す。「うまくいかなかった場合、自分を認めにくくなってしまいメンタル面でダメージを負うリスクも無視できない」という。

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