――航空会社のリーダーとして、乗客の命を預かる重圧はいかばかりかと思います。

「毎朝、安全運航を願って朝日を拝んでいます。祈らずにはいられません。夜も午前1時くらい、アプリのフライトレーダーでうちの便がどこを飛んでいるか確認して寝るのが日課です。心配もしますが、具体的なアクションプランに落とし込んで事故が起きない組織体にしていくのが重要です」

「航空事業は安全性が担保されないといけない。しかし危険なことも起こりうる事業体だということも認識し、それがどうしたら起こらないように、可能性を減らしていけるかです。ピーチは最初から中古機は使いません。何があるかわからないからです。それから社員一人ひとりが一人称で安全性を語れることを目指しています」

何をすべきか自ら考える文化

――1985年に日航機が墜落した群馬県の御巣鷹の尾根にも通われているそうですね。

「最初は私がCEOとして学ばなければいけないと思い、1971年に起きたANAの雫石衝突事故の現場に44年目の機会に行きました。暑い中、80歳を超えた人たちが参列するのを見て、『44年たっても終わらない。一度起こすと終わらない』と自覚しました。それから御巣鷹にも行き、17年からは自由参加、今年からは全員対象の社員研修としました。全員は行けませんが、毎回、リポートを共有しています」

「慰霊登山をして現場に立つと、百万言を費やすより心に響きます。言葉を失いますし、涙を流す社員もいます。事故はいかに悲惨なものかなどいろいろな気付きが与えられる現場で、自分は何をすべきかを自分で考える癖をつけて文化にしたいのです。『井上さんが言うからしょうがない』ではなく、『やっぱりそうだな』と無意識に行動できるように。それには投資も何も惜しみません」

朝の寝覚めは緑茶と梅干し。休みが不規則なので、ジムでは週1回ジョギングする程度だが、早朝に湘南海岸を自転車で走ることも。食べ物は好奇心が強く、変わったものが好き。飲食店ではメニューで何か面白い物はないかを探して選び、定食を自分でカスタマイズしようとして、店員にいぶかしがられることもあるという。好きな読書はビジネス書が8割、文学書が2割。大型バイクのハーレーダビッドソンでツーリングするのが夢だが、今は社員らに止められている

――バニラと統合後のピーチは20年度に売上高1500億円の目標を掲げています。19年3月期の単純合算の1.6倍と、かなり高い目標ですが。

「日韓関係とか香港とか。だいぶ環境が変わってきたのでなかなか難しいものはありますが、チャレンジは忘れずにやっていきたい。中距離路線への就航も視野に入っています。シンガポール、バンコク、クアラルンプール、ベトナムなど中間層の成長が著しい東南アジア市場の取り込みが狙いで、来年度から再来年度にかけての計画に盛り込んでいきます」

ライフスタイルの変革と多様性の実現に貢献

――将来、実現したいことは何ですか。

「少子高齢化は進みますが、LCCならではの魅力的な低運賃でお客様にたびたび利用していただけばピーチは成長できると思います。欧米のLCCの動向をみるとフルサービス系とのすみ分けがはっきりできているので、日本もそうなるのではないでしょうか。現在、日本のLCCのマーケットシェアは1割程度ですが、欧米のように3~4割になる可能性があります」

「LCCの参入で航空機を使った移動の障壁が下がり、予期しなかった変化が起きています。沖縄にマンションを買って週末はそこで過ごすとか、夏だけ釧路に住むといった季節移住。その延長線上でIターンも増えている。テレワーク、二拠点居住といったライフスタイルの変革と多様性の実現に貢献し、日本を変えたいと思います。それは日本とアジアの間でも起きる可能性があります。地方創生、訪日旅客拡大だけでなく、日本とアジアの関係強化のお役にも立てるのではないか。ピーチはアジアのリーディングLCCを目指します」

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井上慎一
 1958年生まれ。神奈川県出身。82年に早大法学部を卒業し三菱重工業入社。90年に全日本空輸に移り、北京支店総務ディレクターやアジア戦略室室長などを経て、2010年にLCC共同事業準備室室長。11年2月にピーチ・アビエーションの前身会社のCEOとなり、同年5月から現職。18年11月からはバニラ・エア社長も兼務していた。

(編集委員 宮内禎一)

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