私30代、独立で変わった タニタ働き方改革のリアル
タニタ流「働き方改革」(3)
社員の個人事業主化を会社が支援するという、健康総合企業のタニタ(東京・板橋)が始めた「働き方改革」が賛否を巻き起こしている。能力のある人が主体的に働き、努力が報われる「真の働き方改革」と賛同する声がある一方、「法規制を逃れる手法」との批判も起きた。今回は、同社の独立制度を利用して、実際に個人事業主として働き始めた30歳代の男女3人に、生活や仕事の向き合い方にどんな変化が生じたのか、本音を聞いた。
2018年、タニタはゲーム業界への進出を宣言して世間を驚かせた。その第1弾であるテレビゲームの操作スティック開発のプロジェクトマネジメントを任されている。
――個人事業主になろうと決意したきっかけはなんですか。
「営業を約10年経験したあと、新設された『新事業企画推進部』への異動を希望しました。尊敬する社外の先輩に、新規事業立ち上げの部署のマネージャーとして活躍している人がいて、憧れがあったのです。そしてせっかく新しい部署で新しいチャレンジをするなら、働き方についても思い切って変えてみようと思いました」
「私は社外に知人が多く、40歳代、50歳代の先輩方の多様な働き方を見てきました。大企業の中で自ら手を挙げてリーダーになった人もいれば、独立して活躍している人もいます。私自身も先輩方のようになるには、今から力をつけておかなくてはならないと感じていました。できるだけ長く働きたいと思っているので、『雇われる』という形でなくても生きていけるスキルを早い段階からつけておきたい気持ちもありました」
「タニタの新制度では、独立後も引き続きタニタの仕事を続けながら、社外で経験を積むこともできます。収入源をある程度確保しながら、社外に通用する力をつけていけるのであれば、利用しない手はないだろうと考えました」
久保彬子さん
社内外関係なく、人が集まって成果を出す
――これまでフリーランスは、デザイナーやエンジニアなど専門職の人たちがなるケースが多く、総務や企画系の職種では少なかったように思いますが。
「この制度ではそういう職種にも門戸が開かれた点がユニークだと思います。世の中全体としても、営業やプロジェクトマネジャー的な仕事でもフリーランスで活躍する事例が徐々に出てきていますよね。私自身、一昨年は先輩が立ち上げた大手食品メーカーの子会社で、フリーランスとして営業の仕事もしました。他のメンバーも業務委託が多かったです。プロジェクトごとに社内・社外の関係なく、興味がある人が集まって仕事をし、成果を出すといったスタイルが今後はどんどん増えていくと思います」
――働き方は変わりましたか。
「正直、土日も関係なく働いている気がします。就業時間の決まりがないので、業務の状況に合わせて自分でコントロールをするとか、そこは自由にできるんですが。いまは、未経験だったプロジェクトマネジメントの仕事に挑戦しているので、不慣れな分いろいろ時間がかかってしまっています。早く帰れ、と言ってくれる上司もいませんから、タイムマネジメントをどうするかが目下の課題です。あと1年くらいは大変なのかなぁと思っています」
――経済的なメリットはどうでしょうか。
「感じています。税理士からも、独立した1期メンバーの中で一番メリットを享受しているんじゃないかと言われました。起業のスクールに通った費用も領収書をもらいましたし、個人事業主は人脈が大事なので、飲みニュケーションにかかる費用もある程度、経費になります。ちゃんと税理士からも経費として認めてもらいましたよ」
――社外の人にも独立したことは話しているのですか。
「はい。大抵すごく羨ましがられます。『ものすごい冒険をしろ』というわけではなく『ウイングを広げたい人は、広げていいですよ』という仕組みなので。やはりタニタの仕事で収入の柱を立てられるという安心感は大きいですね」
タニタが好きな人が独立している
「不思議なことに、同じ部署で、やはり個人事業主になったタニタ公式ツイッターの『中の人』も、私自身も多分、この会社がとても好きなんです。逆にタニタが好きな人が、新制度を使って独立しているんじゃないかという気さえしています」
――どういうことですか。
「個人事業主になって他社の仕事をすることも可能ですが、あくまで主軸はタニタにあるので、最終的にタニタに還元できればいいと思っています。会社が好きなら、なんで正社員を辞めちゃうんだと言われるかもしれないですけど、社員のままでいるより、フリーになったほうが自分の仕事のレベルが上がる。それを会社に還元したいという気持ちです。自分自身の成長が、会社のためにもなるなんて、最初は考えていなかったのですが、実際に新しい働き方をする中で、そういう志が明確になってきました」
――今後の夢は。
「いまは『全部自分でやらなきゃ』と頑張っていますが、自分の得意・不得意がもう少しクリアになってきたら、不得意な分野はそれを専門にしているフリーランスの人にアウトソーシングすることも考えていきたいです。将来は、私に仕事を頼むとプロジェクトチーム『久保組』をまるごと連れてくる――そういう形で働けるようになれれば理想ですね」