「個人事業主になるメリットは、時間の制約なしに、働きたい時には思い切り働き、収入を増やせること。さらに経費を計上できる分、会社が払うお金が同じであっても、個人の手取り収入を増やせる点です。1年目にこの制度で個人事業主に移行した8人は、平均で200万円程度、率にして28.6%、手取りが増えました」

「今年の春時点で、26人がこの制度を活用しています。会社員とフリーランスのいいとこ取りができる制度だと自負しています。まだまだ発展途上で、解決すべき課題も残っていますが、主体的で優秀な人材に報いることができる制度だと考えています」

残業削減だけやっていると日本は滅びる

――現在の残業削減を中心とする「働き方改革」とは随分視点が違いますね。

「私は、残業削減だけやっていたのでは日本は活性化どころか滅びるのではないかと危惧しています。決して長時間労働を称賛しているわけではありません。ただ、個人が自身の成長のためにもっと働きたいと思っているのに、残業規制があるから抑制しなくてはいけないケースがあるとしたら、それはどうなんだと。実際に若手社員からそういう悩みを聞きました」

「これからは、主体的に仕事に取り組み、自分でスキルアップをしていく時代」

「私は、今のように働く時間にばかりフォーカスをあてていると、社員自身も、自分の労働時間を時間で売るような発想から抜け出せないのではと危惧しています。そういう考え方ではいずれAI(人工知能)時代に生き残っていくのは難しいでしょう。これからは『やらさられる』のではなく、主体的に仕事に取り組み、自分でスキルアップをしていく時代だと思います。終身雇用が崩壊しつつある今、従来のように教育コストをすべて会社が負担するのは無理です」

「働く人自らが自分の未来を切り開くために自己投資を行っていく。フリーランスであれば、スキルアップのための講座の費用などは経費になりますし、外の世界で切磋琢磨(せっさたくま)すれば学ぶことも多いはずです。経営者も、雇用を名目に個人を囲い込むのではなく、働く人とよりオープンで対等な関係を結んでいく発想に切り替えていく必要があると思います」

首切りではない。人材は囲い込むものではない

――「首切り」と誤解されたり、人材が流出したりする心配はありませんか。

「人手不足の今の時代、首切りの発想は毛頭ありませんし、もし首切りのためならこんなに手の込んだことはしません。かつての日本企業には、辞めた社員を裏切り者呼ばわりするような風潮もありましたが、これからは社内か社外か、社員かそうでないかに関係なくどんどんコラボレーションすればいい」

「人材流出を本気で心配するなら、やるべきは『囲い込み』ではなく、他社からもほしがられる優秀な人材に『やっぱりタニタの仕事はやりがいがあって楽しい。一緒に仕事をしたい』と思ってもらえるようなチャレンジングな環境を作っていくことだと考えています」

(下)挑戦する社員のためには、2000万円くらい捨てていい >>

谷田千里
1972年生まれ。97年佐賀大学理工学部卒業。アミューズメント関連会社、船井総合研究所を経て2001年タニタ入社。05年タニタアメリカ取締役、08年から現職。

(ライター 石臥薫子)

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