就職活動の現場で、ここ数年当たり前のように飛び交う「オヤカク」(「親に確認」の略)という言葉がある。内定者の親に企業が入社意向を確認することを指す造語だ。オヤカクの結果、学生が内定を辞退するケースが増えているという。背景を探ると、親子関係の変化や就職に対する価値観の移り変わりなど様々なものが見えてくる。学生が脱皮して社会に出るとはどういうことなのか、一緒に考えてみませんか。
初回は、U22世代の子ども2人を育てるママ記者が、オヤカクにまつわる大学生のリアルな声を拾っていく。
取材のきっかけは、ある有名メーカーの人事担当者との雑談だった。「先日、内々定を出した男子学生から『オヤカク』されたんです」と言うのだ。実は「オヤカク」という言葉はそのとき初めて聞いた。男子学生は、自分の親に相談したところ反対され、内々定を辞退してきたという。
学生は西日本出身の理系の大学院生だった。もしそこのメーカーに就職すれば、関東の研究所に配属されることになる。学生は「親に、遠くに行ってほしくないといわれた。介護が必要になったときのことも考えたい」と辞退の理由を語った。結局、年収は100万円ほど下がるが実家に近いメーカーを選んだという。
アラフィフの筆者からすれば、親が子どもの就職に口を出すこと自体、「まるでモンスターペアレントみたい」と正直信じられない気持ちになってしまった。
オヤカクという言葉が日本経済新聞に登場するようになったのは、2014~15年。景気の好転に伴い、現在に続く学生(売り手)優位が始まった時期と重なる。リーマン・ショック以降落ち込んでいた未公開ベンチャー企業の資金調達額もこの頃急回復している。
つまり、学生の中で「もっと大手の企業を強気で狙えるかもしれない」という意識と「ベンチャー企業も魅力的かもしれない」という意識が混在し始め、就職先の選択肢が多様化した時期だ。ところが、親の側は画一的な「大手・有名」志向から抜け出せず、就職をめぐる親子間のギャップが大きくなった。