「平成」を創ったクルマたち ニッポンの輝ける5台
いよいよ平成も終わりが近づいてきた。これまでパソコン、ケータイ/スマートフォン、家電、デジタルカメラというジャンルで、平成を代表する製品を紹介してきたが、最後に取り上げるのは自動車だ。平成の自動車を見続けてきた自動車ジャーナリストの渡辺敏史さんが選んだのは、今では当たり前になっている「常識」をつくった5台だった。
プリウス/電動化の先駆者は今もベスト
最大市場たる中国の新エネルギー車規制発効もあって、世界の自動車メーカーが取り組むクルマの電動化。それをまだ20世紀だった平成9年(1997年)にものにしていたのがプリウスだ。
215万円というファミリーカープライスで、当時の同級車の約2倍という低燃費を絞り出したトヨタハイブリッドシステムのテクノロジーは常にブラッシュアップされており、いまだ効率面においては他の追随を許さない。EVを充電する電気に再生可能エネルギーなどの持続性が担保されない現状では、誰もがどこでも最高レベルの環境性能を享受できるプリウスのそれこそが今もってベストなソリューションだと個人的には思う。開発者たちの英知は日本が誇れるものだ。
スカイラインGT-R/四駆でオンロードを疾走
従来は悪路の走破性を高めるための手段だった四輪駆動を、ラリーカーが路面状況に左右されることなくひたすら速く走るための手段として活用し始めたのが80年代のこと。その技術をさらに研ぎ澄まして、オンロードを徹底して安定的に速く走るために、しかも手が届きそうな現実的価格帯でユーザーの元に届けたのが、平成元年(1989年)に登場したスカイラインGT-Rだ。
その圧倒的なパフォーマンスは新たなGT-R伝説を生み出すにとどまらず、ランサーやインプレッサなどにも大きな影響を及ぼした。スポーツカーカテゴリーの性能面で世界的ベンチマークとなった初めての日本車といってもいい。
セルシオ/圧倒的な品質と異次元の快適性
「石橋をたたき壊して渡れなくなる」という人がいるほど慎重な判断で堅実な経営を続けていたトヨタが、バブル期に全社を挙げて取り組んだ壮大な冒険。その発端はプラザ合意を含む為替の猛烈なドル安・円高にある。トヨタ、日産、ホンダと、輸出依存の高い日本の自動車メーカーが、高価格高付加価値の高級車ビジネスに活路を見いだすのは自明でもあった。この流れでトヨタはレクサスブランドの設立を決意。そのフラッグシップとして開発され、平成元年(1989年)に発売されたのがセルシオだった(国外ではレクサスブランドからLSとして販売)。
相反する要素を高次元で両立させる二律双生思想や、課題の原因を対処的ではなく根源から取り除く源流主義といった開発哲学は現在のトヨタにも大きく影響を与えており、その意に沿って大量の人員と開発費を投じて作られたセルシオは圧倒的品質と異次元的快適性を武器に、その1台で世界のトップサルーン群に割って入る存在となった。
ステップワゴン/日本車の形状を変えた
3列シートで6人以上の乗車定員を持つミニバン的カテゴリーのクルマといえば、かつては荷室空間の大きい商用車をベースとしたものが大勢だった。そこに乗用車的なアーキテクチャーを用いることで「広く軽く安い」という三要素を成立させたのが平成8年(1996年)に発売されたステップワゴンの功績だ。
なぜホンダからそのアイデアが生まれたかといえば、長年FF(フロントエンジン・フロントドライブ)を作り続けてきたことでエンジンやミッションなどの主要コンポーネンツを小さくまとめることや、床板をフラットに作ることなどに慣れていたという見方もできるだろう。同種のクルマとしてはオデッセイの方が先駆けとなるが、日本のファミリーカーとして受け入れられたのはステップワゴンのコンセプトだった。他社への影響を含め、日本車の形状を変えた一台といっても過言ではないだろう。
ロードスター/平成元年生まれのスポーツカー
前代未聞の5チャンネル販売網構築と、おのおのに向けた専用車種開発という、今振り返ると明らかな失策の先陣を切って、ユーノスブランド向けの車種として平成元年(1989年)に発売されたのがロードスターだ。
小さく軽いボディーに見合った小排気量エンジンを載せてキビキビと走り回る2シーターのライトウエイトオープンは、自動車メーカー間では70年代以前の「枯れ果てたトレンド」として認識されていた。その趣旨を本格的なメカニズムと共に復活させたロードスターは世界中で愛され、メルセデスベンツやBMWまでを巻き込んだ再びのライトウエイトオープンブームの発端となる。
その後バブル崩壊と共に経営危機を迎え、フォードの傘下となったマツダだが、自らのアイデンティティーとしてこのクルマは大事に守り続けてきた。それが好調を続けながらブランド再構築を図る現在の同社の姿につながっていることは想像に難くない。
福岡県出身。出版社で二・四輪誌編集に携わった後、フリーの自動車ライターに。主な著書に、2005~13年まで週刊文春に連載した内容をまとめた「カーなべ」(上下巻、カーグラフィック)。
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