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有森裕子 マラソン女子が令和の東京五輪で勝つには

日経Gooday

2019/4/21

そんな福士選手は、レース後にこんなことを話していました。「今回は海外の選手がいたけれど、MGCではいなくなる。(自分は)主導権を握って走るというのをやったことがないので、MGCではやってみたい」。この言葉を聞いて私は、「ああ、彼女はきちんと自分の置かれた状況や課題を分かっているな」と思いました。

■「なぜ勝てたのか」を振り返ることで見えてくるもの

名古屋ウィメンズマラソンは絶好のコンディションで、理想的なペースメーカーもいました。でも、オリンピックのレースではペースメーカーはいませんし、どんな天候になるかも分かりません。恐らく相当な暑さの中での戦いになるでしょう。そんな中で勝つためには、自分自身でペースを組み立てて走る能力が必須条件になります。

MGCの出場権を獲得した女子選手たちが、さらにここからもう一段強くなるためには、「なぜここで結果が出せたのか」「どうして自分は走れたのか」という徹底的な分析がカギになるでしょう。

失敗したときはもちろんのこと、良い結果が出たときであっても、その分析を人任せにせず、練習内容や技術面、体調面、メンタル面といったさまざまな角度から振り返り、自分の頭でしっかり勝因を考えることはとても重要です。そこから見えてくる答えやさらなる課題は、MGCやオリンピックのレースの作戦を立てるときに必ず生きてくるはずです。

私自身も現役の頃は、普段の練習内容はもちろん、レースでの体の状態やメンタル面、食べた食事の栄養成分までノートに記録し、「こういうものを食べたから、今回のレースではエネルギー切れしなかった」など、結果と自身の状況の関係性を少しでも把握しようとしていました。選手として成長し、オリンピックでメダルを獲得するために、そうした振り返りが大いに役に立ったと実感しています。

■常識にとらわれず、自分自身でレースを組み立てる意識を持つ

私が現役だったころよりも、今の日本の女子選手の方が、タイムを見れば実力は格段に上です。そんな彼女たちが世界の舞台で勝つためには何が必要でしょうか。

私が銅メダルを獲得した1996年のアトランタ五輪女子マラソンでは、ファツマ・ロバというエチオピアの選手が優勝しました。覚えている方もいらっしゃると思いますが、当時まったく無名の選手だった彼女は、なんと19km付近で先頭集団から飛び出し、独走状態に入ったのです。見ている誰もが、「こんなに早くスパートをかけるなんて無謀だ、この選手はいずれ失速するだろう」と思ったはずです。

ところが彼女は、大方の予想を覆し、独走を保ったまま2位以下に圧倒的な差をつけて金メダルを勝ち取りました。これには世界中が驚きました。20km前でスパートをかけるというのは、マラソンの通常の勝ちパターンからは考えられないことです。しかし当時の彼女は、それで勝てると確信して、勝負に出たのでしょう。最後まで失速することなくゴールテープを切れたのは、早い時点でスパートをかける練習を繰り返していたからかもしれませんし、「今日はそれができるコンディションや体調だ」と分かっていたからかもしれません。

そうした常識にとらわれない作戦を立てて、そのためのトレーニングを積み、さらに五輪という大舞台で仕掛けられるまでのメンタルがないと、金メダルはつかみとれないのです。

そのためには、やはり普段から、自分でペースを組み立てていくという意識や、さまざまな状況に対応するための練習が重要になると思います。

(まとめ:高島三幸=ライター)

有森裕子さん
元マラソンランナー。1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。

[日経Gooday2019年4月9日付記事を再構成]

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