中江有里、6年ぶり小説 披露宴から描く「結婚とは」
15歳で芸能界入りし、17歳で映画初主演、NHK連続テレビ小説や大河ドラマの出演を果たすなど女優として活躍する一方で、2002年に脚本家デビューしてからは、脚本家・小説家としても活躍する中江有里。1月に発売された「残りものには、過去がある」は、3冊目となる小説だ。
6つのエピソードからなる連作集。家庭向け清掃会社の社長であるムーミン似の47歳と、18歳年下の美しい従業員の不釣り合いなカップルによる結婚披露宴を軸に物語は展開されていく。
「披露宴独特の感覚って不思議だなとずっと心に残っていました」と中江。第1話「祝辞」は、新婦の友人として招かれた女性が語り手。この女性、実は新郎・新婦とは縁もゆかりもない、人材レンタルサービス会社から送り込まれた"レンタル友だち"なのだった。
「第1話は気持ちが冷たいところからスタートしたくて、2人のことをまったく知らないゲストって誰だろうと考え始めて。レンタル友だちの存在を知ったことで、物語の形が見えてきました」
レンタル友だちに始まり、友人やいとこ、呼ばれなかった元カノ……。新郎・新婦と縁遠い人たちの語りから、物語は、結婚する2人の"秘密"へと迫っていく。
「結婚は、すること自体ではなく、した後に2人の関係を維持していくことのほうが大変です。深く信頼した相手と一緒にいるための結婚で、結果として苦しむことになるって、どうなんだろう? その問いに対する私なりの答えが、今作の新郎・新婦のあり方に込められています」
書き手としての思いは芸能界入りよりも早い時期から抱いていた。
「初めて小説を書いたのは小学校6年生頃で、書き終えられなかった覚えがあります。中学時代には、同世代の男女の青春小説を書きました」
28歳のとき。コンテストに挑んだ脚本「納豆ウドン」は、NHK大阪の「ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞を受賞し、脚本家としてデビューするきっかけを与えた。
「小説家への道を切り開いてくれた作品です。受賞作『納豆ウドン』を自分でノベライズすることになったのですが、4年ぐらいかかって」
「脚本というのは物語の設計図のようなもので、登場人物の心境や情景描写など小説的な要素がすべて省かれます。自分で作った設計図をもとに、脚本にない要素もいろいろ付け足しながら仕上げることをやり通したおかげで、小説の書き方のしっぽのようなものをつかんだ気がします」
その後、06年に「結婚写真」、13年に「ティンホイッスル」と2作の長編小説を発表。今作「残りものには、過去がある」は、小説作品としては6年ぶり。早くも4作目の出版を予定している。
「まったくテイストが違う長編『トランスファー』が、新しい元号になったころに出せそう。機会があれば小説を書き続けていきたいです」
(「日経エンタテインメント!」3月号の記事を再構成 文/土田みき 写真/鈴木芳果)
[日経MJ2019年3月1日付]
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