スロベニアの壮大な地中探検 川が流れる洞窟の絶景
米トランプ大統領のニュースがメディアに登場しない日はないが、今回は、ファーストレディであるメラニア夫人の故郷スロベニアの美しい洞窟の写真を紹介する。
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ヨーロッパ、アルプス山脈の南端に位置するスロベニアは、洞窟探検で世界的に有名な国だ。四国ほどの大きさの国土に約8000の洞窟がある。なかでもおよそ20の洞窟は独特の美しさを持ち、そのスケールは中国南東部やベトナム、ラオス、パプアニューギニアの巨大カルストの洞窟にも引けを取らない。
スロベニアにはいくつもの川があり、そのほとんどが地上を流れている。ところが、いくつか特定の場所で奇妙に地上から姿を消す川がある。多孔質の石灰岩を通り抜けて、地中の洞窟に流れ込むのだ。
英国生まれで現在はオーストリアに暮らす写真家兼洞窟探検家ロビー・ショーン氏は、スロベニアの有名なレカ川、ラク川、ピフカ川の地中での姿、つまり洞窟内を流れる川を撮影し続けている。
レカ川は、スロベニアのシュコツィアン村で突然、岩穴に吸い込まれる。地下にはユネスコの世界遺産にも登録されているシュコツィアン洞窟群があり、まるで川が丸ごと地面に飲み込まれるような光景を見ることができる。レカ川は約40キロ下流のイタリア、モンファルコーネ近郊で再び姿を現し、ティマボ川となって2キロほど流れるとアドリア海に注ぐ。
「川のある洞窟は決して珍しいものではありません。世界中にあります。しかし、こんなに大きなサイズになっているカルスト地形は貴重です」と、スロベニアの洞窟探検家カタリナ・コシック・フィッコ氏は語る。彼女はカルスト地形の研究者であり、4人から成るショーン氏の洞窟探検チームの一員でもある。
スロベニア南西部には、クラス台地と呼ばれる広大な石灰岩の地形があり、その下には石灰岩が長い年月をかけて浸食された複雑な地下世界が広がる。「クラス」はスロベニア語で岩石や不毛の地を意味し、「カルスト」はクラスから派生した言葉だ。
「私が洞窟探検を愛している主な理由は、未知なる場所を探検できること、洞窟の成り立ちについていつも新しい発見があることです」とコシック・フィッコ氏。「非科学的な視点から見ても、川の洞窟は最高です。地下で渓流下りを楽しんだり、太陽の光が届かない水面に浮かんだりできるほか、洞窟に暮らす水生生物の観察や、美しい鍾乳石だって鑑賞できるのですから」
スロベニアの洞窟は歴史を通じてさまざまな役割を果たしてきた。水源や冷蔵庫として利用されただけでなく、戦争中は武器庫にもなった。クリジナー鍾乳洞は氷河時代、クマたちの避難所として使われたらしく、約2000頭の骨格が洞窟内に残されている。川の洞窟には今も、希少なものを含め数多くの生物が暮らしている。
ポストイナ鍾乳洞は、最も多くの観光客が訪れるスロベニア最大の洞窟だ。観光客を乗せた列車が迷路のような洞窟を走り、化石や驚異的な鍾乳石を見学できるホールもある。ポストイナ鍾乳洞と近くのプラニナ鍾乳洞にはホライモリも生息している。ホライモリは洞窟にすむ珍しい両生類で、絶滅が危ぶまれている。
「スロベニアは洞窟探検の発祥地と広く考えられています」とコシック・フィッコ氏は話す。「さまざまな洞窟があり、誰でも地下に潜ることができます。観光客向けの手軽なものから世界最深クラスまで、自分のスキルに合った洞窟を見つけることができます」
次ページで、川が流れる壮大な洞窟の写真9点を紹介する。
(文 Andrew Bisharat、写真 Robbie Shone、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2017年11月15日付記事を再構成]
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