菊地凛子 米国ドラマの現場で求められるのは瞬発力
西部劇の世界を再現したテーマパークを舞台に、人間そっくりのアンドロイドの反乱を描く海外ドラマの大作『ウエストワールド』(日本ではスターチャンネルで放送中)。シーズン2では、日本の江戸時代を再現した「ショーグン・ワールド」が登場。真田広之、菊地凛子、祐真キキら日本人俳優が出演して話題を呼んでいる。芸妓(げいぎ)のアカネ役に抜てきされた菊地凛子に、映画並みのスケールで展開される米国ドラマの撮影現場の様子を聞いた。

『スター・ウォーズ / フォースの覚醒』の監督J・J・エイブラムズと、『ダークナイト』『インターステラー』などのヒット映画で脚本を担当したジョナサン・ノーランが組み、1シーズンあたり100億円という製作費を投じた全米HBO局の超大作ドラマ『ウエストワールド』。西部劇の世界を再現した未来のテーマパークで、ホストと呼ばれるアンドロイドは入場客(ゲスト)をもてなすが、一部のホストが暴走を繰り広げる。
4月から全米放送が始まったシーズン2の第5、6話では、江戸時代の日本を再現したテーマパーク「ショーグン・ワールド」が登場。そこでアンドロイドの芸妓アカネ役を演じたのが菊地凛子だ。映画『バベル』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされて注目を浴び、映画『パシフィック・リム』も世界的にヒットした国際派女優だ。
■真田広之が見せた責任感
2話だけの撮影にあたり1カ月半もアメリカに滞在したという菊地。まずは、大きな日本家屋がたくさん並ぶ、江戸時代の日本を再現した巨大セットに驚かされたという。「西部劇を模したテーマパーク『ウエストワールド』と対をなすようにデザインされていました。西部の町と同じ長さの街並みで、家屋の中まできちんと作り込んでありました。『(江戸時代を描く)他の作品でも使える』と思いましたね(笑)。黒澤明監督の映画に影響を受けたそうですが、ドラマならではのオリジナリティーも重視したそうです。(製作総指揮の)リサ(・ジョイ)は、セットはまだ壊さないと言っていました」

ショーグン・ワールドでのエピソードには、真田広之、祐真キキ、TAOら豪華な顔ぶれの日本人俳優陣も出演。「昔の日本人の所作などを相談し合いながら演じることができて、安心できる環境でした。やはり真田さんはすごいです。日本の俳優としての責任感がとても強く、出演されていないシーンも収録現場に来て、セットや小道具などの描写がおかしくないか、チェックしていました。また(メイヴ役の)タンディ・ニュートンは日本語の台詞を覚えるのに苦戦していましたが、彼女も真田さんからアドバイスを受けて『真田さんは素晴らしい。ハンサムだし』と絶賛していました(笑)」

アクションも楽しんで演じられたという。「以前から殺陣は練習していましたが、大抵の時代劇では女性がアクションをしないので、今回は演じていて楽しい役でした。返り血を浴びるシーンがありますが、血がもっと飛び散ってもよかったです(笑)」
演技指導に対して驚いたことがあった。「怒りが高まる場面でも、演技はやりすぎないように、抑えめに、と演出されました。現場には必ず脚本家たちがいて、彼らも意見を出しますが、日本人は感情を出さないほうがふさわしいと言っていました。日本の作品のほうがもっと感情を出せと演出されることが多いので、そこは意外でしたね」
ストーリー展開について不明な点があって質問すると、予想外の回答が返ってくることが多かったとか。「次の展開を知らないほうが『ウエストワールド』をもっと楽しめるじゃないか、と言われました。スタッフはみんな、それほどこのドラマが大好きなんです」
「数日後に収録する場面の台本が届くと、当初はあったはずの場面が無くなっているなど変更はしょっちゅうで、俳優だけでなくスタッフも混乱します。ですが、どのパートのスタッフもタフで、何がなんでも結果を残そうと全力を注ぎます。収録のスピードはとても速かったですね。映画の現場で求められるのが持久力だとしたら、ドラマで求められるのは瞬発力ですね。今まで経験してこなかった世界でした」
■ハリウッドでのチャンスは広がる
ハリウッドにおける日本人俳優の需要はどうか。「従来なら日本人俳優は、日本人であることがはっきりしている役と、ぼんやりとアジア系であるという役のどちらかを演じていましたが、最近は役名がまるで欧米人という役も増えています。つまり、アジア系であることを重視していない役まで演じられるチャンスが増えているように感じています。でも実際、そういう役は狭き門ではないかという気もして、オーディションを受けるかどうか、つい悩んでしまいますが(苦笑)。可能性がある場合はこれからも挑んでいこうと思います」
全米では好評のうちにシーズン2の放送が6月に終了。シーズン3への期待が高まるが、今後はどうなりそうか。「ウエストワールド以外にショーグン・ワールドがあるなら、他のワールドがあってもおかしくないですよね。期待しています」
(ライター 池田敏)
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