調理道具のベンツ? 「レズレー」にプロがほれるワケ
合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏がイマドキの調理道具を徹底比較。今回はプロが憧れ、一度使うとハマるといわれる調理道具メーカー「レズレー(ROSLE)」の機能性について、日本で代理店を務めるサンテミリオンの古屋大地社長に話を聞いた。
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調理道具は1過程、1食材に1ツール
こんにちは、飯田結太です。飯田屋に来るお客さんは、購入するものを決めていて指定買いする人が多いのですが、その中で最もよく聞かれるのが、「レズレー」の調理道具。一度使うと、使いやすさ、機能性の高さにハマるプロの料理人が続出しています。なぜそんなに好まれるのか。そのワケを探るために、レズレーの日本代理店を務める、サンテミリオンの古屋大地社長に話をうかがいました。
――飯田屋では、名指しで商品を購入しに来る人が多いのですが、大きく分けて2つあります。1つは「●●用の便利なものは?」という人。もう1つは「レズレーのスライサーはありますか」と、レズレーの商品を買いに来る人なんです。レズレーを指名買いする人の多くはプロ。プロに愛用されているレズレーとは、どんなメーカーですか。
レズレーは、1888年にドイツ、バイエルン地方のアルプスのふもとの町で設立されました。もともとは金属加工のマイスターで、調理道具に世界で初めてステンレスを取り入れたメーカーでもあります。日本に上陸したのは30年ほど前。サンテミリオンでは15年ほど前から総代理店をしています。
――レズレーの調理道具にはどんな特徴がありますか。
現在は600種類以上ありますが、すべての商品にいえるのは、18-10というステンレスの中では硬度の高い素材を使っていること、人間工学に基づいた使いやすさ、機能性、そして、ヨーロッパの有名なデザイン賞を多数受賞しているデザイン性の高さだと思います。特に、プロ仕様という点で相当なこだわりを持っています。
――それはどういうことですか。
プロは長時間作業をするので、調理道具に耐久性と使いやすさは必須条件です。また、料理の種類によって異なりますが、料理が出来上がるまでにはいくつもの工程があります。例えば、千切りにして、炒めて、盛り付けるなど。その過程1つずつのために1ツール、また、1つの食材に対して1つのツールがあるんです。
――プロが使うシーンを考えているんですね。耐久年数はどのくらいですか。
使い方によって変わってきますが、一般的に最低10年は持つように作られています。実際は、メンテナンスも行うので、一生使えるモノもあります。
――私は商品が入荷すると、ほとんどのものを試すんです。特にレードル(おたま)は各社のものを使ってみました。レズレーのものはその中でもダントツで使いやすいんです。
レードルは、見た目はシンプルですが、汁物や食材を入れる部分の周りにあえてフチを付けているのが特徴です。これは、スープはお客様の目の前でサービスすることが多いということを想定したもの。鍋からスープをすくうとき、器にスープを入れるときに、スープが垂れずに汁切れを良くする工夫なんです。柄の部分に角度が付いているのも、鍋からすくうとき、器に入れるときに手首で無理な動きをしなくても済むようにしたため。動作が美しく決まるように考えられています。そして、飽きずに持ち続けられるようにデザインも気を抜かずに仕上げているんです。プロの使う調理道具はいろいろな面で優秀さを求められますから。
――硬さにもこだわりがあるそうですね。
プロが使うものなので、使用中に壊れては困る。ちょっとしたことで曲がったりしても困るんです。だから硬さにはこだわりがあります。実は、お客様の前で、レードルでくぎを打ったこともあります。もちろんきれいに打てるんです。それくらい硬いんです。
完熟トマトがぺらぺらになるスライサー
――私が一番驚いたのは、スライサーでした。スライサーやピーラーは各社のものを集めると相当な数になりますが、種類はたくさんあっても、完熟トマトを薄くスライスできるものは少ない。なのに、レズレーのスライサーはそれを簡単にできるのがすごいですね。
トマト専用というわけではないのですが、5段階に厚みを調整できるのが、「アジャスタブル V‐スライサー」です。これは、レズレーを象徴する商品といってもいいかもしれません。
――それはなぜですか。
パーツは、フレームと鉄板と刃だけでシンプルなのですが、この小さなツールのなかに、いろいろな要素が詰まっているんです。まず、フレームはドイツならではの車を作る技術を応用して作られています。たわみもなく、鉄板もフラットであることが重要。これらをつなげるためにネジは使わず、レーザー溶接で継ぎ目をなくしています。ネジが取れたりさびるという心配がないので、衛生的に使えるんです。
――刃がV字なのが特徴ですね。
そうです。実は、従来品ではトマトをきれいにスライスするのは難しかったのですが、刃をV字にすることでそれが可能になりました。調整ツマミを回すと、0.5~5mmまで5段階に調節することができます。野菜をグリップするベジタブルグリップ付きなので、完熟トマトもしっかり押さえて薄く切れるんです。ほらこんなふうに。
――薄いですよね。すごい。完熟トマトって、包丁でもきれいにスライスするのは難しいんですよ。それをスライサーで簡単にきれいにできるのは驚きです。上から見てもスケスケの薄さですね。ズバ抜けていると思います。
料理のプロに対して、われわれは道具のプロ。自信を持って「●●(食材)をきれいに切れる」と宣言して売りたいというのが根底にあります。だから、シェフや飯田さんに薦めるときも一歩踏み込んで説明したり、実演するのが当たり前になっていますね。
――私も道具については相当語りたいほうですが、古屋社長にはかないません。
使いやすさという点では、刃にも大変注力しています。チーズを細かく削ったり、最近注目されているニンジンのサラダ「キャロット・ラペ」用の太めの千切りも簡単にできるグレーターというものがありますが、この刃はとても時間をかけて作られているんです。
エッチング技術で仕上げる繊細な刃
――チーズを削ろうとすると、目が詰まってしまってなかなかうまく削ることができないんですよね。でもレズレーのグレーターは気持ちいいほどスムーズ。それは刃に秘密があるんですね。
この刃は彫刻刃のように斜めに付いているのが特徴です。これによって、包丁で引き切りするような感じに切れるんです。この刃はエッチングで作られています。鉄板の上に塗装して、薬品をたらし、徐々に溶かしていって細かい刃を付けているんです。
チーズに適しているのは「ファイングレーター ライト」。これはおろし金のようなもので、チーズのような粘りや弾力があるもの、しょうがのように繊維があるもの、シナモンやナツメグのような硬いものを削るための道具です。
――とても細かいですね。
ニンジンは「ミディアムグレーター ライト」でスライスすると、少し太めの千切りができます。実は、わざと食材の表面にざらつきができるようになっているんです。そうすることで、食材にドレッシングや調味料が浸み込みやすくなります。包丁で切るよりも味が深く浸み込むんですよ。
――グレーターは本当にプロに人気が高いです。使用中に滑らないように先端にシリコンの滑り止めが付いているので使いやすいですよね。こういう調理道具に慣れていない人でも簡単に使えるからいいですね。
セクシーな調理道具こそ、プロのツールだ
――古屋社長にとって「いい道具」とはどういうものですか。
まず、絶対的に必要な機能をきちんと使えること。ちゃんと切れる、ちゃんと削れる、ちゃんとつかめるもの。使っていて苦しいと思ったらダメだと思います。また、調理道具は使う人の優越感を満たすもの。だから道具に魅力がないとだめ。機能するデザインじゃないとだめなんです。私の持論では、それはセクシーということなんです。いい道具とは、セクシーさを持っていることだと思います。
――私も道具は使う人の表現する手段だと思っています。特に調理道具は使っていくうちに手になじんでくる。でも、最近の大量生産のものは、手になじんだころに壊れてしまうものが増えました。それは残念。レズレーは一度買ったらメンテナンスができるからいいですね。
そうですね。レズレーの商品は高額なものが多いですが、高額にはそれなりのわけがあります。ドイツは、自動車も家電も全体的に価格が高い。でもドイツ人はそれに対してあまり抵抗がないんです。それは機能性、安全性に納得しないとモノを買わない文化だから。だから商品に対して納得すると、長く愛用するんです。レズレーもその考え方を継承しています。機能性、安全性には揺るがない自信がある。だから「高い」と言われてもいくらでも説明ができるんです。
――良い道具は手になじんで長く使えるから、料理の腕も上達しそうですよね。
私はプロに限らず、料理初心者の人ほど、高くても長く使える本物の道具を使ってほしいと思います。そして、私はいろいろな厨房にお邪魔したことがあるのですが、調理道具にこだわるシェフほど、食材をムダにしないんですよね。だから、道具は食育にもつながるのではないかと思っています。
――今日は興味深いお話をありがとうございました。
(ライター 広瀬敬代)
[日経トレンディネット 2018年3月29日付の記事を再構成]
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