30代の女性からは「女性だから不利と感じたことはないが、ガラスの天井は本当にあるのか」との質問が出た。カサノバさんは「ガラスの天井があれば、自分で破ればいい」とアドバイス。「若い世代が社会を変えていく。与えられるのを待つのではなく、自分から権利を勝ち取っていってほしい」と激励した。
柔軟な雇用、生産性を改善 ビルエモット氏講演
天然資源を持たない日本が社会的、経済的に発展できたのは「日本人」という人的資源を持っていたからだ。
ただ、最近は知識やスキルを持った人を活用できていないように感じる。女性で顕著だ。21世紀、日本が発展するには人口の半分を占める女性の寄与が、官民両方で必要となる。
女性を含めた多様性の重要さは、7年前から経済同友会が提唱していた。安倍晋三首相も5年前に「女性が輝く国にする」と発言している。ただ、日本の女性活躍は十分進んでいるとはいえない。欧州と比較すると、民間企業に占める女性管理職の割合は低い。国会議員に占める女性の割合は経済協力開発機構(OECD)加盟国で最低水準だ。
なぜ日本は人的資源を十分活用できなくなってしまったのか。背景には2012年ごろから新興国市場の成長が鈍化しはじめたことがある。今後は人工知能(AI)など、新技術を活用して成長していく必要がある。
ところが日本は技術を生産性向上に生かせていない。少子高齢化により人手不足が進み、生産性が悪化している。結果、経済が成長しても世帯所得は上がらないままとなっている。これは日本経済が抱える最大の問題だ。
日本の高校生の授業習熟度はかなり高いにもかかわらず、能力が仕事に生かされていない。特に女性で顕著だ。現在32%の女性が自身の能力に見合わない仕事に従事しているといわれている。
現状を変えるためにやるべきことは2つある。1つ目は、多様な人材を活用するための仕組みをつくること。例えば働き方改革は大きなテーマだ。2つ目は雇用体系の見直しだ。過去30年で非正規雇用者の数は増え続けている。結果、教育水準に見合わない仕事に甘んじる女性は多い。少子高齢化が進み労働需給が逼迫する中、日本経済の発展のためにはより大きな枠組みの中で雇用のあり方を変えていく必要がある。
女性の社会進出が進んでいないと嘆くだけでなく、希望を持つ必要もある。世界でも大卒の女性が増えてきたのはごく最近だ。
日本では90年代後半にやっと、25%の女性が大学に進学する時代となった。能力の高い女性が増えているといっても、今は社会に出たばかりの段階にある。教育を受けた女性をリクルートし、柔軟かつ安定的な雇用契約を結ぶことが重要となる。
■リーダー登用、世界に後れ
2013年に政府が女性の活躍を成長戦略の柱に据えて以降、女性リーダーの育成や登用に力を入れる企業は増えてきた。しかし海外と比較すると、女性の活躍は依然大きく遅れている。
日本の管理職(課長相当職以上)に占める女性の割合は12%。3~4割に達する欧米諸国との差は大きい。東京商工リサーチによると、17年3月期決算の上場企業の役員に占める女性の割合はわずか3.3%。女性役員ゼロの企業が7割を占める。政府は上場企業の女性役員比率について「20年までに10%を目指す」とするが、道は険しい。
政治分野での女性活躍も世界に後れをとる。列国議会同盟(IPU)の調べでは、女性議員比率(下院)が日本は193カ国中158位。17年10月の衆院選で女性議員比率は10.1%と微増したが、世界平均(23.4%)を大きく下回る(18年1月現在)。
世界経済フォーラムが毎年発表する男女平等ランキング(ジェンダー・ギャップ指数)の17年の順位は144カ国中114位。前年より3つランキングを落とし、過去最低となった。イノベーション創出の重要性が叫ばれる中、各国はダイバーシティ推進を加速している。日本は現状に危機感を持ち、実効性のある取り組みを強化する必要がある。
[日本経済新聞朝刊2018年3月6日付]