ハマグリ、アサリ、シジミ…うまみの競演 台湾の海鮮
現地駐在員と行く台北庶民派グルメ旅(下)
羽田・成田からわずか4時間の身近でおいしい海外旅行、2泊3日の台湾庶民派グルメの旅。前回(「駐在員と巡った台湾の味 小鉢で一献、突き出し感覚で」)に引き続き、後半戦をご紹介しよう。
アラ鍋、絶妙の味わい 鵝肉城活海鮮
島国・台湾でぜひ食べておきたいのが海鮮だ。島の北半分は亜熱帯、南は熱帯の台湾なので、日本とは魚種が異なるものが多いものの、鮮度がいいだけに間違いなくおいしい。そんな海鮮の店の中から現地駐在員の水ノ江秀子さんが選んだのは「鵝肉城活海鮮」。台北の中心街にあり、地元の人たちにも人気が高いという。
システムは明快だ。店頭はまるで鮮魚売り場。仕入れた魚介が、ずらり並ぶ。冷蔵ケースではなく、敷き詰められた氷の上に無造作に魚を並べているのは、鮮度がいい証拠だろう。
これを眺めながら、おいしそうな食材を選んで注文する。日本の港町でよく見かける、鮮魚店で買った食材を、隣り合わせたバーベキュースペースで焼いて食べるのとよく似たシステムだ。
食べ逃せないのは、日本の台湾料理店でも定番のシジミのしょうゆ漬け。日本人的感覚だと、これだけ鮮度のいい魚介を見せつけられると「じゃ、刺し身で」と言いたくなるところだが、そこはやはり台湾、基本は火を通して調理する。
そんな中にあって、シジミのしょうゆ漬けは生の食感を楽しめる数少ないメニューだ。丸のままのニンニクと大きく切ったショウガが「どうだ、うまそうだろう!」と訴える。それに釣られるように、味がしっかり染みたぷるぷるの身を口に含む。そして口じゅうに広がった濃厚な味わいを、台湾ならではの軽いビールで洗い流す。この繰り返しは、至福のひとときだ。
アサリは、ショウガとごま油がしっかり効いたいため物に。ショウガとしょうゆ、ごま油の組み合わせは、日本人の舌に根付いた味わいだ。香菜のちょっとした刺激が、ここが台湾であることを気づかせてくれる。
ハマグリはシンプルに塩蒸しに。身のうまさを、殻に残ったすまし汁のうまみが上回る。この貝に残った汁をすする瞬間こそがハマグリの魅力だ。愛知県の知多半島で食べた大アサリを思い出す。これは、最後まで「日本の味」だ。
野菜はなんとサツマイモの葉のいため物。鹿児島でも茨城でも、食べたことのない味だ。
エビは土鍋で蒸し焼きに。軽く振りかけられた中華のたれがほんのり鼻腔(びくう)をくすぐる。前回も述べたが、台湾の味付けは概してやさしい。東京で食べる中華はしっかりと味付けされたものが多いが、台北では、海鮮に限らず、素材の味わいを感じられるような濃すぎない味付けものもが多かった。日本的な感覚で言うと「だし」のような味わいだろうか。
それを顕著に感じたのが、白毛という大きな魚。身は清蒸に、アラは鍋にしてもらったのだが、実はけっこう食べ残してしまった。まずかった訳ではない。蒸し上がった皿のスープが、そして鍋の汁が抜群においしく、ついつい汁ばかりを欲してしまうのだ。
お腹が膨らんで以降は、このスープばかりを口にしていたかもしれない。ぜひこのアラのだしで湯豆腐を食べてみたい。そんな風に感じた。
実は同店、海鮮といいながら、鵝肉(ガチョウ肉)も看板メニューの一つ。ただし、量が多いので注文する際は注意が必要だ。
仏さまのアタマにかぶりつく? 台湾フルーツ
台湾と言えばフルーツが豊かなことでも知られる。看板とも言えるのは台湾バナナ。日本ではすっかり見かけなくなった小ぶりなバナナがあちらこちらで目に入った。今年は豊作なのだとか。ライチやマンゴーも有名だが、あいにく季節外れ。そこで、冬に食べられる台湾ならではの果実を水ノ江さんに選んでもらった。
まずは釈迦頭。字の通りお釈迦様の頭のような形をしている。実が熟すのを待ってから食べるものだという。
割ると中からねっとりとした果肉が登場する。これをスプーンにすくって食べる。酸味は少なく、かといって甘すぎず、ねっとりとした食感と合わせて、日本ではたとえる味が見当たらない。
もうひとつ、蓮霧は釈迦頭とは対照的な食感だ。果汁が少なく、果肉もスポンジ状だ。スカスカのりんごと例えて言えばいいだろうか。これまた日本にはない味わいだ。このなんとも食べ応えのない食感が妙にハマる。
酒飲みには、お腹にたまらない食べ応えのなさとほんのりやさしい甘さがうれしい。ホテルの部屋で白酒の合間にかじった。
台湾モーニングは豆乳が主役 永和豆漿大王
2泊3日の台湾庶民派グルメ旅もいよいよ最終日。最後の朝食ももちろん台湾流だ。「永和豆漿大王」は台湾のあちこちに同じ看板を掲げる店があるという。しかし、チェーン店ではなく、豆乳を中心とした軽食を出す店の「ジャンル名のようなもの」だという。
前日は飲み物として口にした豆乳を、この日は汁ものとして食べる。注文したのは卵が入った塩味の豆乳だ。同行したメンバーがそれぞれ好みの豆乳を頼み、具が入っていない饅頭や揚げパンを分け合って、豆乳に浸して食べる。
豆乳は塩味が絶妙で、豆乳というよりはとろける温泉湯豆腐に近いような味わい、食感になる。これに揚げパンを浸し、好みで少し調味料を加えて、れんげですくって食べる。揚げたてが豆乳に浸ってしんなりする頃になると、あっさりの豆乳に油のコクが出てくる。このマリアージュが魅力的なのだが、やりすぎるとくどくなるので、饅頭と組み合わせて、過剰に油っぽくならないようにして食べるのがポイントだ。
セルフサービスの鍋料理 曽徳自助火鍋城
日本で言うと渋谷や原宿と言ったところだろうか、若い人が多く集まり、ファッショナブルな店も多い西門を最後に訪れた。
お昼どき、朝の揚げパンが胃もたれ気味で、ちょっと食欲減退気味で入ったのが「曽徳自助火鍋城」。火鍋というと、日本人なら赤と白の2色の鍋を思い浮かべるが、この店は白だけの火鍋。自助とはセルフサービスなので、要は好きな具を冷蔵ケースから選んで食べる鍋物だ。
ただし「自助」と言いつつ、勝手に鍋奉行になるのは許されない。まず、羊か豚、肉を選んだら最初はプロの仕事だ。鋳鉄製の鍋の回りにアルミの油よけが立てられると、強火で肉をいため始める。野菜やキノコなど、セルフサービスで運んできた皿も、最初は触ることは許されない。
具が入り、だしが張られ、調味料で味が調えられるとやっとゴーサインが出る。最初のいため油の香ばしい香りとその後の調味料に、食欲減退集団は一気に豹変(ひょうへん)した。
だしには味が付いているのだが、調味料コーナーにずらり並べられた調味料や薬味から選んで、好みの「マイつけだれ」を作る。これで鍋を食べ進む。
香菜や青いネギ、セロリなどをたくさん入れるといかにもアジア風の味わいになる。野菜やキノコがいくらでも食べられるのだ。白黒2色の魚のつみれは、日本で言うとつみれよりもカマボコに近いぷりぷりした食感だった。西洋風に言えばミニミートオムレツ、中華風に言えば皮が卵のギョーザも実にいい。
何が食欲減退だ。誰もが次々と冷蔵ケースから好きな皿を持って来ては鍋に投入する。
シメは麺。庶民派グルメの真骨頂はインスタントラーメンだ。粉スープなしの袋めんを残った鍋スープに投入する。麺に火が通ったら、そこに最初からテーブルに置かれていた生卵を割り入れる。
香港や韓国もそうだが「お店でインスタントラーメン」はやはりアジアの食だ。
安い、うまいに加えて「日本人好みの味」が台湾庶民派グルメのキーワードかもしれない。過剰に辛いものもの甘い物もない。香菜も控えめ。ただし、調味料で自分好みに味を変えることは可能だ。もちろん好き嫌いはあるだろうが、よほど好き嫌いが激しい人でなければ、台湾をおいしく味わえるのでないだろうか。
羽田・成田から約4時間、時差も1時間。体力的な負担も少ない。もちろん交通費も。台湾へちょっとうまいモノ食いに行って来ませんか?
(渡辺智哉)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。