緑に囲まれたハーバード大学のキャンパス

 海外大学志向の先駆けとなったのは渋谷教育学園幕張高校と同渋谷高校だ。両校の校長を兼任する田村哲夫校長はグローバル人材の育成を掲げ、毎年両校からハーバード大など海外大学にそれぞれ20~30人が合格するようになった。しかし、課題は高い学費と海外での生活費。「実際に進学するのは半数ぐらいですね」(田村校長)という。

海外大の学費は東大の10倍

ドイツの研究機関で研修中の20代前半の副島智大さん。立教大学の付属高校から東大に合格した。だが半年後に米国の理系トップ大学、マサチューセッツ工科大(MIT)に進学した。「MITの授業料は年間約4万6000ドル(約520万円)、生活費や寮費を含めると年間6万ドルでも足りないのが実感だ」という。学費は東大など国公立大学の約10倍だ。

成績優秀だった副島さんには支援者が現れた。入学して2年目に米国在住で美術収集家のミヨコ・デイヴィーさんから授業料などの支援を受けられるようになった。米国人向けの奨学金制度は充実しているが、日本人の中には資金が続かず、途中で断念して帰国する学生もいる。

柳井財団 海外進学を支援

日本にも救世主が出てきた。渋谷教育学園の田村校長は「柳井正財団から渋渋、渋幕の両校の生徒が海外大学進学の支援対象者として選ばれた。16年は5人、17年は4人になる」という。ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏が同財団を創設、名門海外大学の進学を支援する海外奨学金プログラムをスタートした。同財団によると、17年は37人を支援対象とした。上限額は7万ドルだ。17年7月、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏が創った孫正義育英財団も96人の異才を選出。海外留学などの経済面で支援する事業を開始している。

田村校長は「日本の経営者にも柳井さんや孫さんなどグローバル人材を育てようという動きが出てきているのはありがたい」と話す。しかし、「日本社会は海外の大学に進学した有能な人材をまだ受け入れられていない。うちの卒業生でも理系のエンジニアや研究者は、ほとんど海外にとどまっている。日本発のイノベーションを起こせる人材も少なくないのに、もったいない話だ」と嘆く。米国のフェイスブック本社で働く内山慧人氏は、渋渋からハーバード大に進学。革新的なソフトを開発して創業者マーク・ザッカーバーグ氏の目に留まり、日本人の新卒社員第1号になったという。

東大一直線から医学部、そして海外大志向に。グローバル化が急速に進む中、日本のキャリアの行方も大きく変わろうとしている。

(代慶達也)

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