門外漢には全くピンとこないだろうが、このメシャムは放熱性が良く加工しやすいことから、高級パイプの材料として珍重され、今も昔もパイプ愛好家の垂ぜんの的である。良質なメシャムは主にトルコで産出されて、有名なトルコ人作家のものは、コレクターズアイテムになっている。
面白いことに、メシャムのパイプは使い込むと煙が染み込んで、べっ甲のようなトロリとしたあめ色に変化する。欧州の貴族たちは、まるで唐津のぐい飲みを愛玩するように、メシャムの味だしを競ったという。
これもパイプ愛好家にしか分かち合えない特権だが、メシャムのパイプで吸う煙は、ひんやりとして何とも言えずうまいのである。ある意味で、男にとって最もフェティッシュな石が、メシャムではないだろうか。
■紳士が持つべき象徴、万年筆
最後に、男の定番的なアイテムにダイヤモンドが飾られたストーリーで締めくくろう。1924年生まれのモンブラン「マイスターシュテュック」といえば、万年筆という機能を超えて、紳士が持つべき象徴として愛され続けている。キャップトップのホワイトスターが、差したポケットからも、すぐに分かるのが特徴だ。

ポケモン探しなんて言ったら、ファンに叱られるかもしれないが、実際にポケットのモンブラン探しが歴史的なエピソードになったことがある。1963年、ドイツのケルン市で、ゴールデンブック(芳名録)に、時のドイツ首相アデナウアーが署名する際、自分の万年筆が見つからないという珍事が起こった。その時、同席したジョン・F・ケネディがポケットからさりげなく「マイスターシュテュック」を差し出したという。
2010年、そのモンブランのキャップトップにダイヤモンドを飾った「マイスターシュテュック モンブランダイヤモンド」が登場した。43面体のホワイトスターにカットされたダイヤモンドは、未来のダンディーたちに、どんな物語を綴っていくのであろうか。
コラムニスト。ファッションからカルチャー、旅や食をテーマに、雑誌やテレビで活躍中。近著に広見護との共著「ザ・シガーライフ」(ヒロミエンタープライズ)など。
[日経回廊 9 2016年9月発行号の記事を再構成]