DANDY & RHAPSODY

箱入りだから、こだわりも出る。 by Takanori Nakamura Volume 10

2018/5/16

筆者の愛用する茶箱の皆具一式。ルイ・ヴィトンのエピの茶箱ケースの中は、ミャンマーのバガンの骨董店で求めた蒟醤(きんま)の箱。赤楽の茶碗、砂張の建水、楽の茶巾筒、藤組の茶筅筒などが収まっている

 日本経済新聞の人気コラム「私の履歴書」に遠州茶道宗家の故・小堀宗慶氏が登場したのは、2006年の夏だった。宗慶氏は、学徒出陣し旧満州(現中国東北部)のチチハルで終戦を迎え、その後ソ連軍の捕虜としてシベリアに4年以上も抑留された。「私の履歴書」には、その過酷な体験談がつづられていたが、8月1日の朝刊の文章は私にとって衝撃的だった。宗慶氏は玉音放送を聞いた後、軍の機密処理とともに戦地で愛用し続けた茶かごを自らの意思で燃やしてしまったというのだ――。

文=中村孝則 写真=藤田一浩 スタイリング=石川英治

(1)トランクは雄弁だ。>>
<<(9)男の鉱物、女のジュエル。

 茶箱あるいは茶かごは、お点前に必要な茶道具一式を小さな箱やかごに仕込んだミニチュアのセットのことである。これ一式あれば茶室がなくとも茶会ができるので、戸外や旅先でも重宝する。利休が考案したとも伝わるが、自分好みで選び抜かれた愛玩道具を詰め込んだ茶箱は、まさしく茶人の小宇宙だ。

■フェティッシュな執着心も引き写す

 ミニチュアであるがゆえに、通常の道具以上にフェティッシュな執着心も引き写す。男であれば一度はミニチュアの世界に熱中した経験はあるのだろうから、その気持ちは理解できると思う。鉄道模型やプラモデル、フィギュアからドールハウスまで、ミニチュアの世界は、今でも大人の男の立派なホビーではないか。

 もしかしたら私たちは、物を小さくして手中に収めることで、相対的に自分自身の存在を大きくし、精神までも解き放つことができるのではないだろうか。たとえば、植物のミニチュアともいえる盆栽の醍醐味は、自然の創造者である神の視点をもつことだという。

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