産業医が勧める上司像 理想は「キャバクラの店長」型産業医・大室正志さんインタビュー(下)

2017/12/20

大室 最近は、上司のみならず部下や同僚、顧客などさまざま々な立場から評価をする「360度評価」の導入が進んでいますから、部下も上司を見る機会があります。しかし、少し前は上司からの評価しかありませんでしたから、部下に対しては粗雑に扱う人が結構多かったんです。

部下が評価する制度を導入することで、上司のマネジメントもずいぶん改善されるでしょう。これからは、部下を導くのが上手な人、ファシリテーション能力が高い人が評価されるのではないかと思います。

「俺ってすごくない?」と確認する上司

白河 体育会系の「俺についてこい」というマネジメントではなくて、ちゃんと説明したり、言語化できたり、フィードバックが適切なマネジメントが求められるわけですね。

大室 そうです。かつては、高圧的な「親父」的な上司のほうが評価される傾向が強かったのですが、今はタモリさんや内村光良さんのように、一見すると薄味だけど、自然に周りを導くような感じの人のほうが評価されると思います。

白河 自分がガーっと行くよりは、周りにいる人を輝かせるような人ですね。

大室 ただ、困った傾向も出てきました。ミドルマネジメントが、部下に「俺って、すごくない?」と聞くケースが増えているのです。ちょっと気持ち悪いですよね。

大室さんは「マウンティングのようなプチパワハラ」が増えているという

白河 なぜ、そんなことを聞くのでしょうか。

大室 昔、上司と部下との関係は、親子ほどの年の差がありました。しかし今は、両者の関係はフラットに近づきつつあります。

年齢だけではありません。今はプレイングマネジャーが増えているので、かつてのように「監督と選手」のような明確な違いはなくて、「キャプテンと選手」くらいの差になっているわけです。

人は、近しければ近しいほど、「自分のほうが上だ」と確認したくなります。例えば会議中、本来ならば部下をもり立てるのが上司の役割なのに、「俺のほうがすごい」と言ってしまう。すると、部下がしらけてしまうんです。

つまり、上司というアイデンティティーが揺らいでいるから、マウンティングのような形のプチパワハラが増えているんです。一つ一つは小さなものかもしれませんが、積もり積もってゆけば、パワハラと認定されてしまう恐れがあります。

白河 大室先生は、著書の中で「目指すべきはキャバクラの店長」と書いていらっしゃいましたね。これについてちょっと説明してください。

大室 先ほども述べましたが、「オレについてこい」と言うような上司に、現在では若い部下はついてきません。上司・部下だけの関係で多様化した人材をマネジメントするには限界があるのです。

いわゆる体育会系の上司・部下の関係は部下も自分と同じような文化環境で育ったという前提で、言語化して説明するというプロセスを省略してしまいがちです。

むしろ、現在では部下は自分と全く違った環境で育っているので、もともと感じ方や考え方が違うのだという「諦め」からスタートしたほうがコミュニケーションがうまくいく場合もあります。

自分とまったく違った文化環境の人々をマネジメントしている例として分かりやすいのがキャバクラなど夜の接客業の男性店長ではないでしょうか。

そもそも、店員と自分は性別が違いますし、一人ひとりが能力給のため、「店長だから偉くて給料も高い」という図式は通用しません。

共通要素が少ない存在ですから、男性店長は、「この部下たちのために、このチームの能力を最大化するために自分がやれることは何か」を純粋に考えられるのです。

また、キャバクラは離職率が極めて高い職場ですので、部下を職場に引き留めておく「リテンション」も店長の重要な役割になります。店長は部下に気持ちよく働いてもらうためには高圧的な態度を取りません。むしろ店長はよく部下を褒めます。

企業は最近、すぐに辞めてしまう社員、あるいは組織に属することよりも自分というものを大事にする社員を多く抱えています。キャバクラのマネジメントは、彼らをマネジメントする上で参考になるのではないかと思ったのです。

注目記事
次のページ
日本人男性は、日ごろから感情を言語化せよ
今こそ始める学び特集