一般に魚よりも肉のほうが亜鉛を多く含んでいるが、魚をよく食べる人よりも肉をよく食べると答えた人のほうが精液中の亜鉛濃度が高く、つまり精子の数も多い傾向があることが分かった[注1]。古くから「亜鉛をとるとセックスが強くなる」といわれたが、それを裏付ける結果だろう(図2)。
睡眠時間もまた、精液成分と関係している。睡眠時間が7~9時間の人は精液中の8-OHdG濃度が15.0ng/mLだったのに対し、3~5時間の人は20.9ng/mLと、明らかに精液の酸化度が高かった(図3)。当然、妊娠させる力とも関係があるだろう。
これらの調査から、「食生活や睡眠時間などの生活習慣は、精液成分にも大きく影響する可能性があることが分かりました」と堀江教授は話す。研究が進めば、いずれはがんやメタボリックシンドロームのリスクも精液から調べられるようになるかもしれない。
クラウドファンディングで開発費を調達
このように、精液成分には妊娠能力以外にも多くの情報が潜んでいる。これを健康診断などに活用しない手はないだろう。しかし、これまでは不妊治療を除いて医療機関で精液を採取する機会はなかった。しかも検査対象は精子だけに限られ、それ以外の精液成分は完全に無視されていた。
本格的に精液成分の研究を進めるには大量のデータが必要だ。そこでダンテでは、精液成分を分析する開発費用を集めることも兼ねて、2017年10月からクラウドファンディングを始めた。
出資者には自分の精液を郵送してもらい、分析して結果を知らせる。検査項目は精液に含まれる亜鉛、テストステロン、スペルミン(精子形成に重要なポリアミンの一種)、クレアチン(精子の持久力を高める成分)の4つ。寿命の短い精子と違い、精液成分なので郵送による検査が可能で、5000円(2項目)から精液検査が受けられる。詳しい内容は同社のHP(https://readyfor.jp/projects/dantte)に掲載されている
男性向け健康食品の参考にも
順調に行けば、2018年春には一般向けのサービスを開始。ダンテ代表取締役CEOの瀧本陽介さんは「1回2000~4000円程度の価格にしたい」と話す。その検査結果をもとに、食品メーカーや医薬品メーカーと協力し、男性の健康を訴求するトクホ(特定保健用食品)や機能性表示食品の開発も考えているという。
「男性向けをうたったサプリメントもありますが、しっかりしたエビデンス(科学的根拠)のある商品はほとんど見当たらない。エビデンスを作るにも、まずはデータの収集が不可欠なんです」と瀧本さんは訴える。
[注1]亜鉛は魚介類のカキや貝類、イカ、タコなどにも多く含まれるが、カキ以外は100g当たりの亜鉛含有量が肉と比べてかなり少ない。
(ライター 伊藤和弘)
[日経Gooday 2017年10月27日付記事を再構成]