こだわりの逸品

74歳「匠」が伝える100%オーダーメード オーダースーツの銀座英国屋(上)

2017/9/9

英国屋の本社工房では最高技術者の水本忠正氏(右)をはじめ、約40人のスーツ職人が働く(東京都中央区)

東京・銀座の高級スーツ店「銀座英国屋」を運営する英国屋(東京・中央)は、顧客一人一人、採寸して型紙をつくり、スーツを仕立てるテーラーの老舗だ。1940年創業の同社が保管する型紙は2万点以上。そのなかにはホンダの創業者、故本田宗一郎氏のものもある。独創的な発明家らしく、スーツ1着にも自分なりの工夫を凝らしていた。店の担当者と議論を交わし、パンツのファスナーを長くして簡単に脱げるようにしたという。これは、その後の英国屋の仕様にもなった。「ビスポーク(bespoke=オーダーメード)を通じてお客様に満足いただける1着を提供するという伝統は今も変わらない」と同社の小谷邦夫副社長は語る。

後編「ビスポークスーツ、「技」継承へ分業体制」もあわせてお読みください。




銀座通りに面した本店には欧州を中心に取り寄せた約1000着の最高級生地を用意しており、専門のフィッティング技術者も配置している。まず生地を選び、ポケットの位置などのディテールを決めていく。採寸をもとに生地を裁断するための「型紙」を作製、「仮縫い」までに約2週間、さらに「本縫い」に約3週間かけて、その人だけの1着が完成する。英国屋の平均価格は1着25万~30万円ほど。

銀座通りに面した銀座英国屋の本店(東京都中央区)

英国屋の強みは「本縫い」の技術の高さにある。それを専門に手掛けるのが、本店からほど近い新富町にある直営工房だ。約200平方メートルの工房では約40人がスーツ作りに従事する。1人の職人が裏地の縫い付けから最後のアイロン掛けまで、すべてを担当する。工房ではベテランと中堅、若手が一対一のコンビを組んで差し向かいに座って作業する。ベテランの職人は自分の担当をこなしつつ、後輩の仕事ぶりもチェックする。

最年長は74歳の水本忠正氏で、約半世紀のキャリアを持つ同社の最高技術者だ。同社の定年は制度上60歳だが、小谷副社長は「手作りの技術は何ものにも代えがたい」と話す。このため技術者本人が希望すれば、仕事を続けられる制度とした。

水本氏がアパレル業界に入ったのは16歳のとき。針、ミシン、アイロンなどの使い方を先輩の仕事ぶりを見よう見まねで学んでいった。「先輩の技を盗んでいくのが仕事の一部だった」(水本氏)。

住み込み賄い付きで月給5000円。「技術が身につけば半年後から給料が上がる仕組みだったのがうれしかった」と水本氏は振り返る。

当時は高度成長期のまっただ中。会社からの帰りには、次々と新しくなっていく銀座の街のショーウインドーを眺めて回る毎日だった。「他社のスーツでもどの部分にどんな工夫をしたかは見てすぐ分かる」と水本氏は語る。

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