紳士服「ハケットロンドン」の店の重厚なドアの取っ手は傘の形。ヴィクトリア時代の家具やエドワード8世の乗馬ブーツなどで装飾された店の奥に入ると、帽子のランプシェードの明かりに出くわす。試着室の洋服掛けはこれまた傘の柄だ。
「ミスタークラシック」の異名を持ち、英国でもっともセンスが良いと熱狂的なファンを持つ創業者、ジェレミー・ハケット氏は「店に入るだけで英国の香りをまとえる店にした。記憶に残るでしょ」とにやり。1階には服から小物までハケット氏好みのものばかりを集めたコーナー「ジェレミーズワードローブ」がある。「この店から英国を発信したい」
職人が仕立てたスーツやジャケット、レインコートには英国を代表する質の高い素材が使われ、ロイヤルワラントを受けたアタッシェケースや傘なども扱う。シックなジャケットの裏地には派手なドット柄やストライプ柄が使われているのもブリティッシュスタイルならではだ。
秀でた手仕事、品ぞろえ豊富
英国王室ブームやカジュアル化の反動で、「秀でた手仕事や質の高い素材から生まれてくるメード・イン・イングランドのものを求める機運が、世界的に高まった」とハケット氏。エリザベス女王が主催する、若い芸術家や職人を応援するための組織「QEST(クエスト)」も立ち上がり、「これまで注文服くらいしか作れなかったところが生産能力を上げたり、休業していた小さな工場が操業を再開したりする動きがでてきた。こうしてバラエティー豊かな商品をそろえ日本に持ってくることができるようになったのです」。
「ハンター」はロイヤルワラントを取得している長靴(ウェリントンブーツ)で160年の歴史を持つ老舗だ。2005年に有名モデル、ケイト・モスが野外音楽フェスで履いたことから世界中で人気に火が付き、日本でも「おしゃれ長靴」として抜群の知名度がある。
13年にクリエーティブディレクターに就任したアラスディア・ウィリス氏は長靴を核にファッション性の高いフットウエアを展開。ハイヒールでカラフルなショートブーツや、28パーツから成るブーツのモチーフを生かしたブルゾンなどのアウターやニットなどの衣料品、アクセサリー類とマルチブランド戦略を進め、ブランドを現代的によみがえらせた立役者だ。
攻める商品でブランド再生
「英国製品が今パワフルといわれるのは、それまでは伝統だけを前面に出していたブランドが、攻撃的に新しい試みをし始めたから。ハンターのように『プログレッシブヘリテージブランド(前進する伝統的ブランド)』になったから興味をもってもらえるのだと思う」。1階の巨大スクリーンには天気予報などが映し出され、2階の床には人工芝が埋め込まれている。「英国のエキセントリックさ」を表現したのだという。
英国王室が愛用する旅行かばん「グローブ・トロッター銀座」では日本企業と組み、65色のボディーカラーや留め金の色など180億通りにのぼる「ビスポーク(オーダー)システム」を導入した。デジタル画像の出来上がりイメージ図が画面に映し出され、好みのかばんを仕上げていくのが面白い。同店にはドイツのカメラ「ライカ」とコラボしたカメラバッグや、超音速旅客機コンコルド就航40周年を記念したトロリーケースといった、ファン垂ぜんの限定コレクションもそろう。
女王が主催する「QEST」の認定を受けて生産工場の規模を拡大。職人は約2倍の97人まで増えた。ジェフ・ボーン会長は「少しずつ育ててきた商品がやっとそろったところ。驚きがある、ヒップで“東京ツイスト”した銀座店を世界戦略の要にして、攻めていきたい」と話す。
大資本のブランドグループが乱立するフランスやイタリアと比べると、小規模展開で国外へのアピールが弱いといわれてきた英国ブランド。だからこそ消費者の期待も高まる。(企業報道部次長 松本和佳)