「俺にぴったり」数カ月待ち 専門店オーダーの醍醐味
人と同じものでは満足できない男性の間で、オーダー品の人気が上昇中だ。細部にこだわって仕立てるシャツ、革とバックルの組み合わせを楽しむベルトなど。多くは小規模な専門店が扱い客層も限られていたが、ネットで情報が広がるにつれファンの裾野が広がった。体形や好みにぴたりと合う特別感と、数カ月待ちで手に入る"時間差"が、モノへの愛着を強める。
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仕立て職人が20カ所採寸
6月、セレクトショップのストラスブルゴ大阪店(大阪市)に「ハウステイラーズラボ」が開店した。職人が常駐するオーダーサロンで、顧客と対話しながらビスポーク(特別注文服)のスーツやコートを仕立てる。2015年にストラスブルゴ南青山店(東京・港)に開設したラボに続く関西の拠点だ。
7月中旬には南青山店に常駐する、日本では数少ないシャツ職人の一人、山神正則さんのオーダー会が開かれた。山神さんが手掛ける「山神シャツ」は立体的なシルエットとボタン付けに特徴がある。
首、肩幅など採寸は20カ所にのぼり、とりわけ骨格を重視する。肩甲骨が隆起しているか、荷物はどちらの手に持つことが多いか、普段着ける時計の厚みはどのくらいか――。チェックポイントは数多い。ボタンと生地の隙間は、かけたり外したりしやすいよう、ちょうど指が入りやすい幅に調整。その幅も首元や腹部などボタンの位置によって微妙に変えている。
山神さんの信条は「着ていることを忘れるくらいフィットしたものにすること」。どんな体形の人でも「余計なシワが寄らない、違和感がない、と満足してもらえる」と自信を見せる。
ドレスシャツからカジュアルシャツまで対応し、価格は3万5000円から。新規客の場合は完成までに5カ月を要する。「こんなに動きやすいシャツはない」とすでに20着オーダーした会社経営者もいる。注文客の8割がリピーターになる。
衣服に比べてオーダーしやすいのがベルトや財布といった小物類だ。百貨店やチェーン店の商品とはひと味違う素材やデザインを求めて、専門店を訪れるビジネスマンが増えている。
象、クロコダイル、パイソンなどの革ベルトに、繊細な手彫りの模様が入ったシルバーのバックル。ウエスタンスタイルの専門店ファニーIMP店(大阪市)では自分好みのベルトとバックルの組み合わせを選べる。ベルトは1万円前後から。米国やメキシコからの輸入バックルは5万円前後~数十万円まで。
同店は約30年前からオフィスビルの中で運営している。店長の菅野愛さんは最近、客層の広がりを実感するという。「今の消費者が求めているのはオリジナリティー。シルバーのバックルはデニムスタイルにもスーツにも合わせられ、ビジネスマンに好評」という。取り外し可能なチェーン、コンチョと呼ばれる円形の飾りなどを選べる長財布も人気で、ブランドものでは飽き足らない消費者の心をつかんでいる。
ひと味違う独自性求める
東京都台東区にある福禄寿は米国製ブーツ専門の修理店として知る人ぞ知る存在。バイク好きのオーナー、奥山武さんが02年に開店し、米ブランド「リオス・オブ・メルセデス」「レッドウィング」「ラッセルモカシン」などのウエスタンブーツやエンジニアブーツの輸入も手掛ける。ブーツの中心価格はレッドウィングが4万円、リオスが9万円など。
ユニークなのは色、ストラップ、ステッチ模様、先の丸みなどを奥山さんがメーカーに発注した、希少な「奥山モデル」であること。ソールは数十種類の中から好きなものを選べる。当初、顧客の大半はバイク愛好家だったが、近年はネットでの注文が急増。先日は受注開始後2週間で、十数種用意したリオスのブーツ計300足が完売した。
ソール張り替え(1万~1万5000円)で靴底を厚くしたり、真っ赤な色のソールを付けたりできる。「お客がステッチや革をバランスよくフルオーダーするのは難しいので、僕がトレンドも踏まえたオリジナル品を作り、販売数量も制限している。皆が持っている商品なら要らない、という消費者が増えているからね」(奥山さん)
オーダーには店主や職人のセンス、個性が色濃く投影される。それが消費者の共感を呼ぶ最高のスパイスとなる。
(編集委員 松本和佳)
[日本経済新聞夕刊2017年8月12日付]
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