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健康・医療
from 日経Gooday

2017/7/24

from 日経Gooday

「俺の言う通りしないんだったら、レギュラーを外すぞ」

「このバカ! お前なんかチームのお荷物だ。お前なんか要らない!」

と部活でコーチや監督から青年期にパワハラ指導された人が、管理職になってから

「俺の言う通りにしないんだったら、査定を下げるぞ(または、クビにするぞ)」

「このバカ! お前なんか課のお荷物だ。お前なんか要らない!」

と自分の部下たちにやってしまうのです。

昨今さすがに体罰はパワハラだと分かっている人は多いのですが、こうした言葉のパワハラには鈍感な人もいて、自分に「パワハラの世代間連鎖」が起こっていることに気が付かない場合があります。「自分がよかれと思って部下を厳しく指導していたら、人事にパワハラだと注意されて、懲戒処分を受けた」と落ち込んでしまい、パワハラした上司自身がメンタルを病んでしまったというケースにも産業医として遭遇したことがあります。

もちろん部活だけではありません。子どもの頃に親から人格を否定されるような言葉で口汚く罵るようにしつけられた人は、大人になってから他人や自分自身の子どもに対して、同じようなパワハラを行ってしまうことが多いのです。虐待された子どもが親になって自分の子どもに虐待するケースがあるように、パワハラ言動も世代間で連鎖してしまうのです。

ちなみに体育会系部活のすべてでパワハラ言動が行われているというわけでは決してありません。適切な言葉と態度で素晴らしい指導をされているコーチや監督も数多くいます。しかし教育現場ではスポーツ指導における暴力行為が以前から問題になっているのも事実です。文部科学省ではすでに「スポーツを行う者を暴力等から守るための第三者相談・調査制度の構築に関する実践調査研究協力者会議」が行われ、「スポーツ指導における暴力等に関する処分基準ガイドライン(試案)」が提案されています[注2]。お子さんが運動部に所属している方は、パワハラの連鎖が起こる環境で部活をしていないかどうか、一度チェックされてみることをお勧めします。

まずは基本的な知識を持つこと

職場でも家庭でも部活でも厳しく指導することはもちろん時には必要ですが、「正してもらいたい行動に焦点を当てて指導する」「人格を攻撃したり否定したりしない」「執拗に過度に叱らない」「大勢の前で恥をかかせるような叱り方はしない」といった基本は押さえておく必要があります。

「今はちょっと怒るとパワハラと騒がれるから面倒くさい」と嘆く中高年の方にも時々出会います。少子化で怒られ慣れていない大人が増えているのは事実ですし、全ての叱責や指導がパワハラになるわけではありません。適切な言葉と態度で行った指導は、実際の判例でもパワハラ認定されていません。

パワハラの被害者、加害者にならないためには、まずは自分自身がパワハラの正しい知識を持つことが大切です。職場のあちこちでチェック機能が働くようになれば、パワハラの慣れ、パワハラの連鎖も防ぐことができると思います。

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奥田弘美
 精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家。1992年山口大学医学部卒。精神科臨床および都内20カ所の産業医として日々多くの働く人のメンタルケア・ヘルスケアに関わる。執筆活動にも力を入れており「1分間どこでもマインドフルネス」(日本能率協会マネジメントセンター)、「一流の人は、なぜ眠りが深いのか?」(三笠書房)など著書多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げマインドフルネス瞑想の普及も行う。
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