ソニーが新・電子ペーパー端末 なぜいま?
筆者は、電子ペーパーを採用したソニーの電子書籍リーダー「Reader」シリーズを愛用している。しかし、既にReaderシリーズの開発は終了しており、Reader端末からのコンテンツ購入もできなくなってしまった。
一般ユーザー向けの電子ペーパー製品は減少しているが、ソニーは電子ペーパーを使った端末を現在も開発している。2017年6月5日には2世代目のデジタルペーパー「DPT-RP1」が発売された。
電子ペーパー端末を開発する理由はどこにあるのか。また、新製品にはどんな特徴があるのか。マーケティング担当者にその真意を聞くとともに、製品の特徴を探った。
PDFに完全特化した仕様に
DPT-RP1はA4サイズ相当で、13.3型の電子ペーパーを採用。重さは約349gで、片手でも余裕で持てるサイズだ。
E-Ink社のディスプレーを採用している点はReaderシリーズと同様だが、大きな違いはPDFの読み書きに特化している点だ。充電式のアクティブスタイラスペンを付属し、紙に近い感覚で書き込みができる点も大きな特徴といえる。
対応するのはPDFファイルのみで、Wordやパワーポイントのファイルなどは対応していない。それらのファイルを見たい場合はPDFに変換してから保存する必要がある。また、Reader Storeなどで購入した電子書籍の閲覧ができない点からも、PDFに機能を特化させていることがわかる。
軽く、薄く、目が疲れない
紙の束を持ち歩いていた人をより手軽にしたい。そんな思いから「A4サイズで読み書きできる端末」として開発されたデジタルペーパー。
ビジネスシーンではA4サイズの書類や資料が多く利用されることから「デジタルペーパーにはニッチながらも確実なニーズがある」とデジタルペーパー事業推進室室長の金谷二朗氏は語る。
実際、2013年に発売された初代モデル「DPT-S1」は、多くの論文や資料に目を通す学者や弁護士、学生のレポートを採点する大学教員などからのニーズが非常に高かったとのこと。評価も高く、2代目である新モデルのDPT-RP1の開発につながった。
PDF資料の閲覧やペンでの書き込みは、デジタルペーパーだけでなく、iPadやSurfaceといったタブレット端末でも可能だ。
ただ、電子ペーパーを採用するDPT-RP1にはバックライトがないため、長時間画面を見ていても目が疲れにくい。また、太陽光の下で問題なく見られるというのも強みだ。
さらに、バックライトがないことから薄型・軽量デザインにできるほか、バッテリーの持続時間が長いのも大きなメリットのひとつ。最長で約3週間というバッテリー持続時間は、通常のタブレット端末では不可能だろう。
「デジタルペーパーはA4サイズで軽さ、薄さ、バッテリーの持ちを全て満たすオンリーワンの製品だ」と、金谷氏は自負する。
デザインだけでなく全てを一新
金谷氏によれば、デジタルペーパーの開発はReaderシリーズの開発チームが母体となった。初代モデルはReaderの技術が生かされたそうだ。
しかし、書籍リーダーとデジタルペーパーは用途が違うため、Readerシリーズのノウハウを詰め込んだ初代モデルは、必ずしも使いやすい端末とは言えなかった。
そこでDPT-RP1は従来の考え方を断ち切り「デザインからプラットフォームまでを一新した」(金谷氏)。
デザインまわりを見ると、ボタン位置やメニューの表示などが大きく変更されている。例えば、Readerや初代モデルでは操作ボタンは下部に配置されていたが、DPT-RP1はボタンを最低限に減らして上部へ移動した。これにより、書き込み時のミスタッチを無くすとともに、すっきりしたデザインに仕上がっている。
また、初代モデルはもっさりした動きがユーザーから弱点として挙げられていたが、DPT-RP1は画面表示や処理速度が向上している。実際に使ってみるとページ送りや拡大などの動きはきびきびしており、PDFファイルも素早く表示してくれる。
純粋に性能が向上しているのはもちろんだが、Readerや初代モデルで利用できたウェブブラウザーをカットするなど、「機能をPDFの読み書きに特化させたことも、性能アップの底上げにつながっている」(金谷氏)。
2つのファイルの見比べが可能に
ディスプレーにあたる電子ペーパーのサイズは、初代モデルと同じ13.3インチのままだが、解像度は1650×2200ドットにアップした。これにより、文字の視認性がさらに高まったほか、端末を横にして見開き表示にしても細かい字がしっかり読めるので、マニュアルなどを見る際には重宝する。
また、2つの別ファイルを並べて表示することも可能になった。古いファイルと新しいファイルを比較したり、資料を確認しながらノートにメモを取ったりできるなど、活用の幅が広がっている。
書き心地は紙そのもの
さらに、ディスプレー表面に独自開発のノンスリップパネルを採用したことも、大きな変更点のひとつだ。これがペン先に適度な抵抗感を与え、紙に近い書き心地を実現している。
従来のタブレット端末では、書き心地の悪さのひとつにタッチペンを使ったときに感じる「画面のツルツル感」が挙げられる。初代モデルも当初はツルツルな画面だったため、抵抗感のあるシートを別売りで販売した。それがDPT-RP1では標準装備になったわけだ。
実際に書いてみると、ペンから伝わる抵抗感は紙と変わらない。液晶ディスプレーで書き込むときに感じる視差のズレもほとんど感じなかった。見た目も含めると、バインダーに取り付けた紙に文字を書いているような感覚に近い。
また、ペン先を変えることで鉛筆に近い書き心地とボールペンに近い書き心地を選べるのもうれしい。筆者は日常でボールペンを使うことが多いので、やや滑りのあるボールペン感覚の方が好みだった。
ワイヤレスのデータ同期が可能に
パソコンとDPT-RP1とのデータのやり取りにはアプリ「Digital Paper App」を利用する。このアプリは今回新たに用意されたもので、初代モデルのユーザーから要望の多かった「クラウド連携」を円滑にするために追加された。アプリの開発については「いままでにないチャレンジだったのでかなり苦労した」(金谷氏)。
初代モデルでは、パソコンにUSB接続すると本体を外部ストレージとし、エクスプローラでデータをやり取りした。この使い勝手だけを見ると、専用アプリを使うのはひと手間増えたという印象を受ける。
今回は、アプリを介することで、Wi-FiやBluetoothを使って、パソコンと線をつなぐことなくデータを同期できるようになった。PDFファイルは基本的に容量が小さいため、ワイヤレスでスムーズにデータをやり取りできるのは使い勝手が高い。
また、アプリでパソコンとDPT-RP1を同期させる際に、パソコン側で設定しているクラウドストレージの同期フォルダを指定しておけば、そのフォルダ内に保存されているPDFファイルをDPT-RP1と同期できる。これは非常に便利だった。
そのほかユニークな機能として、パソコンにアプリをインストールすると、パソコンでのファイル印刷時の出力先として「Digital Paper」が追加される。
これを選ぶと、ファイルの内容をワンアクションでDPT-RP1に直接PDF形式で保存し、すぐ表示できる。確認用の資料などを出力する場合など、スマートにペーパーレス化ができる。
価格は気になるが……
DPT-RP1はコンセプトからPDFの読み書きに特化させた製品なので、一般ユーザー向けの端末ではない。カラー表示ではないし、販売されている電子書籍も読めないし、Wordファイルを開いたりもできない。誰もが利便性を感じる端末でない。
しかし、弁護士や教員をはじめ、仕事で多くの紙データをチェックしたり、持ち運んだり、そこに書き込んだりしている人であればニーズは高い。筆者も、取材用の資料を持ち出したり、掲載前の原稿に修正を書き込みするケースは多々ある。ニーズはそれなりにあるし魅力的な製品でもあるので、かなり欲しいと感じた。
ただ、気になるのはやはり価格。初代モデル(10万円)から性能アップしたうえで8万円にプライスダウンしたとはいえ、それでも簡単に手が出せる価格でない。会社で購入してくれるのであれば良いが、個人で購入するならそれなりの勢いと覚悟は必要だろう。
(スプール 近藤寿成)
[日経トレンディネット 2017年6月13日付の記事を再構成]
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